ラヴ KISS MY 書籍

 

 

 

第四章 へえ、そんなに俺にキスして欲しいのか

 

 

無理な体制だったから、私は倒れそうになり、最上さんの袖を引っ張った。

 

最上さんは私を抱き抱えてくれた。

 

足首に体重がかかり「痛い」と大きな叫び声を発した。

 

「大丈夫か」

 

最上さんは私を抱き抱えてベッドに逆戻り。

 

すぐに足首を確認してくれた。

 

「ちょっと必要以上に力が加わったんだな、大丈夫だ」

 

私は目にいっぱいの涙が溢れて頬を伝わった。

 

最上さんは頬の涙にキスをしてくれた。

 

そして最上さんの唇は私の唇にキスをしてくれた。

 

お互いに強く求め合った。

 

最上さんはいつも言葉と行動が伴わない。

 

もしかして、最上さんも私をちょっとは好きって思ってくれているの?

 

そんな私の浮ついた気持ちは一瞬にして打ち砕かれた。

 

次の日から、最上さんは毎日帰りが遅くなった。

 

それは外科のお医者様なんだから仕方無いかもしれない。

 

でも、帰りは私が眠ってしまってから帰ってくるし、休みは全くない。

 

朝も私が起きてくる時間には既に病院へ行っている。

 

私はやっぱり契約上だけの婚約者なの?

 

契約結婚って言っていたけど、入籍はまだしていない。

 

私の相手をするのが面倒になったのかな?

 

そんなある夜、私が起きている時間に最上さんは帰って来た。

 

「ただいま」

 

「お帰りなさい、今日は早かったんですね」

 

最上さんは何も言わずに寝室へ着替えに入った。

 

「シャワーを浴びるぞ」

 

「はい」

 

「これ、サインしておけ」

 

最上さんはそう言って、テーブルの上に婚姻届の用紙を置いた。

 

既に最上さんはサイン済みだった。

 

契約続けるんだ、良かった。

 

私は久しぶりに早く帰って来た最上さんと話がしたかった。

 

だから、分かっていたが、婚姻届の書き方を最上さんに質問しながら書こうとしていた。

 

シャワールームから出てきた最上さんを早速捕まえて、質問し始めた。

 

「最上さん、病院でサインしたんですか」

 

「ああ、そうだ」

 

「よく、注意書き読みましたか」

 

「別に読まねえけど、名前書いて印鑑押せばいいんだろ」

 

「はじめてだから緊張しますね」

 

「俺は二度目だから、別に緊張しねえけど」

 

えっ、二度目?

 

嘘!離婚歴があるの?

 

「なんだよ、そんなに驚いた顔して」

 

「だって……」

 

「言っとくけど、離婚歴あるわけじゃねえから」

 

「でも、結婚しようと思って、婚姻届書いたんですよね、結婚したいと思った女性がいたって事ですよね、なんで結婚しなかったんですか」

 

「関係ねえだろ、俺達契約なんだから、お互いの過去は知らなくてもいいだろ」

 

「私は知りたいです、最上さんが何を考えて、何を望んでいるのか、過去に何があったのか知りたいです」

 

「何?まさか俺に惚れたのか」

 

私は黙っていた。

 

「いつもみたいに違いますって反論しろ」

 

「反論しません」

 

「お前、自分で何を言ってるのか分かってるのか」

 

「分かってますよ」

 

「俺に惚れたのなら、抱かれてもいいって事だと判断するぞ」

 

私は固まって何も言えなかった。

 

最上さんの事は好き、何を考えて、過去の彼女とどうして婚姻届を書くまでの関係になったのに、何があったのか知りたい。

一緒の時間を過ごすことが楽しい、ずっとこのまま一緒にいたい。

 

でも、すぐに抱かれていいかって、それとこれとは話が違う。

 

最上さんは私に近づき腕を引き寄せた抱きしめた。

 

「俺にはじめてを捧げる覚悟は出来たか」

 

最上さんは私の顎をくいっと上げて数センチと唇が迫ってきた。

 

私は咄嗟に目を閉じて身体を強張らせた。

 

最上さんは私を抱き上げて寝室へ運んだ。

 

ベッドに身体が沈んで首筋にキスを一つ落とした。

 

「あっ、ん」

 

最上さんは上着のボタンを外し始めた。

 

胸の膨らみが露わになり、そこにも唇を押し当てた。

最上さんの手がスカートの中に入り太腿に触れた。

 

最上さんはバスタオルを外し、鍛えられた大胸筋がシャワーの水を弾いてきらきら光っていた。

 

「覚悟はいいか、お前を抱く」

 

心臓の鼓動がドクンドクンと打って身体が小刻みに震えた。

 

最上さんを好きだけどこれからどうなっちゃうのか、怖くて涙が溢れて来た。

私のおでこにチュッとキスをして「バーカ、嫌なら無理するな」そう言って最上さんは私から離れて、タオルケットで身体を包んでくれた。

 

最上さんの優しさに触れて、はじめての怖さから解放されて、最上さんの胸に顔を埋めて私は声をあげて泣き出した。

 

最上さんはギュッと私を抱きしめてくれた。

 

私は最上さんに抱きしめられた状態で朝を迎えた。

 

「いい加減起きろ、重い」

 

「ごめんなさい」

 

私は泣きながら最上さんの腕の中で眠ってしまったのだ。

 

上着のボタンが外れて、胸の膨らみが露わになった状態な事に気づかず

 

「いい眺めだな、いつまでも胸を出してると襲うぞ」

 

「えっ」

 

自分の胸の膨らみが露わになっていることに気づき、慌てて背中を向けてボタンをはめた。

 

最上さんは背中から私をギュッと抱きしめた。

えっ、何?

 

「梨花、ちゃんとお前のはじめてを好きな男の為に取っておけ」

 

最上さんは寝室から出て行った。

 

ぽつんと一人残されて、私の好きなのは最上さんなのにって呟いた。

寝室から出てくると、最上さんは既にシャワーを浴びて、コーヒーを飲んでいた。

 

「梨花もコーヒー飲むか」

 

「はい」

 

「シャワー浴びて来い」

 

私は追い立てられるようにシャワールームに入った。

 

鏡に映った私の胸に赤いキスマークが付いていた。

 

昨夜の最上さんとの抱擁が脳裏を掠めてドキドキして来た自分を抑えることが出来なかった。

 

私はシャワールームから出て来て、キスマークをどうすればいいか聞いてみた。

 

「最上さん、キスマークどうすれば消えますか」

 

「しばらく消えねえな、またつけて欲しいのか」

 

「違います」

 

「やっといつもの梨花に戻ったな」

 

最上さんは口角を上げて微笑んだ。

 

私は思い切って彼女の事を聞いて見た。

「最上さん、どうして彼女と結婚しなかったんですか」

 

「また、その話か」

 

「だって、どうしても気になるんです、もっと最上さんの事を知りたいんです、私はずっと一緒にいたいって思うけど、最上さんはどう思っているのかなって、彼女さんみたいに、

私も婚姻届をやめようと思われちゃうかなって、そうしたら嫌だなって……」

 

「おい」

 

「えっ」

 

「言葉に気をつけろ、お前、今、俺の事を好きだって言ってるのと同じだぞ」

 

私は頬が真っ赤になるのを感じた。

 

「男は単純だから、そんな言葉並べると勘違いするぞ」

 

「だって……」

 

私は心の中で最上さんが好きって叫んでいた。

 

最上さんは「そこに座れ」と言って、彼女との事を話し始めた。

 

「彼女の名前は立花瑞穂、確かに結婚を考えていた、俺が二十五歳の時の事だ」

 

俺は医学部をトップの成績で卒業して、研修医として働いていた。

 

そこに患者として現れたのが立花瑞穂だった。

 

俺は彼女に惹かれて交際を申し込んだ。

 

ところが研修医は時間に追われる毎日で、約束はほとんど守る事が出来なかった。

 

彼女は寂しがり屋で、他の男性と浮気した。

 

そんな事になっているとは想像も出来ず、俺は彼女との結婚を考えていた。

 

「瑞穂、やっと休みが取れそうなんだ、俺のマンションに泊まりに来いよ」

「ごめん、友達と約束しちゃったから、また今度誘って」

 

この時、瑞穂の俺に対する愛は全く感じとる事が出来なかった。

 

仕方無いよな、放って置かれて大丈夫な女なんていない。

 

とんだピエロだ、俺は。婚姻届にサインして、絶対に喜んでくれると疑わなかった。

 

それからまもなくの事だった。

 

病院の外線に瑞穂から連絡が入った。

 

「どうしたんだ」

 

「ごめん、別れましょう、もう連絡してこないで、それじゃ」

 

電話は切れた。

 

俺は何も言えず受話器を置いた。

 

その夜、瑞穂のスマホに電話をすると「現在使われておりません」のメッセージが流れた。

 

俺は一方的に振られた形となった。

 

それから女は信用出来ない。

 

俺は恋愛する事を封印した。

 

「俺が勝手にのぼせ上がって、結婚を一方的に考えて、振られたって結末だ」

 

梨花は俺の話を聞きながら泣いていた。

 

「お前、泣いてるのか」

 

「だって、最上さんが彼女の事を一生懸命考えて、婚姻届を書いたのに、彼女は別の男性との道を選んでいたなんて、悲しすぎます」