ラヴ KISS MY 書籍

 

 

 

 

第三章 バカやろう、そんな事で電話してくるんじゃない

 

パスタソースもあるじゃん。

 

今晩はパスタ作ろうかな、でも最上さんに連絡しないとお弁当買って来ちゃうよね。

 

私は最上総合病院に電話してみた。

 

「最上総合病院です」

 

「あのう、鶴巻梨花と申します、外科の最上丈一郎先生お願いしたいんですけど」

 

「はい、鶴巻梨花様ですね、少々お待ちください」

 

「はい、外科の最上です」

 

「最上さん?梨花です」

 

「どうかしたのか」

 

最上さんは慌てた様子だった。

 

「あのう、夕食はキッチンにパスタがあったので私が作りますね、だからお弁当は買ってこなくて大丈夫です」

 

「バカやろう、そんな事で電話してくるんじゃない」

 

そう怒鳴って電話は切れた。

 

そんな言い方しなくてもいいのに……

 

やっぱり嫌な奴だ。

 

俺はプライベートはスマホを利用している。

 

病院の外線から俺宛の連絡は、ほとんどない。

 

過去に一人だけ真剣に愛した女がいた。

 

俺が二十五歳、彼女は二十三歳、彼女の名前は立花瑞穂。

 

俺は彼女と結婚を考えていた。

 

それなのに彼女は俺との別れを電話一本で済ませた。

 

しかも外線で最上総合病院の俺宛に電話をかけて来た。

俺は彼女の言葉に何も返せないまま電話を切り、そして彼女と別れた。

 

あれから七年の歳月が流れた、外線で梨花からの電話を受けた時、良からぬことが脳裏を掠めた、まさか……

 

外線は嫌な思いしか無い、つい梨花を怒鳴ってしまった。

 

そう言えば、お互いの連絡先交換はしていなかった。

 

仕事が終わり、梨花の待つマンションへ急いだ。

 

「帰ったぞ」

 

「お帰りなさい」

 

梨花はキッチンでパスタを準備していた。

 

「おい、病院へプライベートな事で電話してくるんじゃない、そんなに俺の声が聞きたかったのか」

 

「違います、連絡しないとお弁当買って来ちゃうと思ったから」

 

「いいか、絶対に病院の外線使うな」

 

俺は着替えの為、寝室へ向かった。

 

梨花は俺の背中に向かってぶつぶつと文句を言っていた。

 

「聞こえてるぞ」

 

俺が振り向くと、梨花は頬を膨らまして怒った表情を見せた。

 

「へえ、そんなに俺にキスして欲しいのか」

 

俺は梨花に近づき、腕を掴んで引き寄せた。

 

そして梨花にキスをした。

 

「んんっ、ん」

 

一瞬唇が離れて見つめ合った。

 

俺は梨花を抱き抱えて、寝室へ向かった。

 

「あのう、パスタが……」

 

「うるさい、俺の指示に従え」

 

そして、ベッドに梨花を下ろし、身体を重ねた。

 

梨花の両腕を頭の上でクロスさせ、首筋にキスを一つ落とした。

 

「あっ、んん」

 

胸に触れて梨花の唇を塞いだ。

 

唇が離れて、梨花は「待ってください」と切羽詰まった声を出した。

 

「これからって時に待てるか、それとも借金を耳を揃えて返せるのか」

 

「そうじゃなくて、あのう」

 

最上さんは私の言葉を無視して上着の裾から手を滑り込ませて、胸の膨らみを捉えた。

 

うそ!ちょっと待って、最上さん、私を抱こうとしているの?

 

えっ、どうしよう、私はじめてでどうしていいか分からないよ。

 

「初めてだからどうしていいか分からなくて」

 

透かさずはじめてと言ってしまった。

 

最上さんは私をじっと見てる、絶対になんか嫌味言われる。

 

「キスもはじめてだったのか」

 

私はコクリと頷いた。

 

もう、最上さんを直視出来ない。

 

最上さんはギュッと私を抱きしめた。

 

どう言う事、私はどうすればいいの?

 

「あのう、最上さん」

 

「うるさい、黙れ」

 

最上さんは更に私をギュッと抱きしめた。

 

「許せ、好きでもない男にファーストキスを奪われて嫌だったな」

 

私はどう応えていいか分からなかった。

 

最上さんとキスした時、嫌じゃなかった。

 

それに、抱きしめられて心臓の鼓動が半端ない、意地悪なところはあるけど、嫌いではない。

 

このまま、最上さんにはじめてを捧げることは、自問自答しても分からない。

 

でも最上さんとの生活は楽しいのは事実である。

 

そんな事を考えていると、最上さんが身体を離して私を見つめて言葉を発した。

 

「梨花、一年だけ我慢して俺との契約を続けてくれ、そうしたら借金地獄から解放してやる」

 

どう言う事、私、一年経ったら追い出されるの?

 

「はじめての女は抱く気にならない、でもどうしても抱いて欲しいなら抱いてやる、どうだ」

 

「お断りします」

 

「そうか、じゃ、一年間同居人と言う事で」

 

最上さんは私から離れて部屋を出て行った。

 

なんか涙が出て来ちゃった、何の涙なの?

 

抱いて欲しかったから?一年間でこの生活が終わっちゃうから?

 

私、最上さんが好きなの?

 

でも最上さんは私を好きじゃない、単なる契約結婚の相手だ。

 

「おい、パスタ食べるぞ」

 

「はい」

 

あっ、抱き上げて寝室に連れてこられたから、松葉杖はキッチンに置きっぱなしだった。

 

「あのう、松葉杖を持って来てください」

 

最上さんは寝室を覗いて私がベッドに腰掛けている状態を確認して、寝室に入って来た。

 

「あのう、松葉杖……」

 

最上さんは私を抱き上げた。

 

「しっかり掴まっていないと落とすぞ」

 

「はい」

 

私はしっかりと最上さんの首に手を回ししがみついた。

 

最上さんは頬を私の頬に擦り寄せて、抱きしめる腕に力が入った。

このことが何を意味するのか、私にはさっぱり分からなかった。

 

キッチンへ運んでくれて、私を下ろすと「運搬費用加算な」と意地悪な表情で

 

私を見つめた。

 

もう、やっぱり意地悪な奴。

 

でもいつしか、このやり取りが楽しくて、私の中で必要な事になっていった。

 

パスタを食べ終わり、食器を片付けようとして立ち上がった。

 

「いいよ、俺がやる、梨花は座ってろ」

 

「はい」

 

絶対に何か意地悪な事言ってくると構えていると、あれ?何も言わない。

 

最上さんは黙って食器を洗っていた。

 

私は松葉杖で立ち上がり、最上さんの背中から覗き込んだ。

 

最上さんは、私をちらっと見て「どうかしたか」と一言だけ。

 

「最上さん、意地悪な事言わないなんて熱でもあるんですか」

 

私は最上さんのおでこに手を当てた。

 

最上さんは私の手を掴んで引き寄せた。

 

「そんなにキスして欲しいのか」

 

いつもなら「違います」って反論するのに、私は大胆な行動に出た。

 

最上さんの唇にキスをした。

 

最上さんも私のキスを受けてくれた。