ラヴ KISS MY 書籍

 

 

第二章 梨花が可愛かったからご褒美だ

 

 

「バカ、俺とキスしたい気持ちはわかるが、俺はその気はない」

 

なんだ、私の早とちりだった。

 

でもちょっと気を許した瞬間、最上さんの唇が私の唇を塞いだ。

 

「んん、ん」

 

「梨花が可愛かったからご褒美だ」

 

私はキョトンとして固まった。

 

「悪いな、午後からの手術はどうしても外せない、許せ」

 

「はい」

 

最上さんは急いで病院へ戻った。

 

ぽつんと一人取り残されて、しばらく最上さんとのキスの余韻に浸っていた。

 

だって私はキスの経験もない、最上さんがファーストキスの相手だったのである。

 

お昼過ぎて、お腹が空いてきた。

 

冷蔵庫を開けると何も入っていない。

 

最上さんはいつも何を食べているの?

 

どうしよう。

 

その時、インターホンが鳴った。l

 

「コンシェルジュの佐々木です、最上様から頼まれまして、ランチをお持ち致しました」

 

「はい、今開けます」

 

ドアを開けると佐々木さんがお弁当を抱えて立っていた。

 

「冷蔵庫に何も入ってないので、梨花様にランチをお届けする様にと最上様から頼まれました」

 

「わざわざありがとうございます、ちょうどお腹が空いて、冷蔵庫が空っぽだったので、

どうしようかと思い悩んでいたところでした」

 

「それはようございました」

 

「お弁当の代金はおいくらですか」

 

「最上様より頂戴しておりますのでご安心ください」

 

でも、病院の支払いは全て払ってくれると言っていたけど、食費は何も言っていなかったよね、帰って来てから払えばいいよね。

 

「ありがとうございます」

 

私はお弁当を受け取った。

 

最上さんはなんだかんだと意地悪みたいな事言ったりするけど、本当は優しい人なのかも。

 

高級そうなお弁当、頂きます、私はお弁当を頬張った。

 

なんて美味しいの?

 

このお肉の柔らかさ、ご飯もお米が立ってる感じで美味しい。

 

最上さんは、いつもこんな美味しいお弁当食べているのかな。

なんて羨ましい。。

 

私はお弁当を食べ終えて、ベッドに横になっていた。

 

そのうち、眠ってしまったみたいで、目が覚めると最上さんが私の顔を覗き込んでいた。

 

「きゃっ」

 

「ずっと寝てたのか、いい身分だな」

 

「すみません、お腹がいっぱいになったら眠くなってしまってつい、うとうとと寝てしまいました」

 

「まっ、構わないけどな、足、痛みはないか?」

 

そう言って最上さんは私の足首を確認した。

 

私は最上さんの真剣な顔をじっと見つめていた。

 

「おい、そんなに見てると金取るぞ」

 

「あっ、すみません」

 

「仕方ないか、俺の顔は最高の出来だからな」

 

最上さんは自信満々の表情でニヤッと口角を上げた。

 

「普通、自分で言いませんよ」

 

「俺は普通じゃないかもな、誰も着いてこないんだから」

 

「その意地悪な性格直さないと一生独身ですよ」

 

「お前はずっと俺の側にいるだろう、もう、俺の妻なんだからな」

 

「そんな事分からないじゃないですか、私が契約解除したいって言ったら、離婚ですよね」

 

「ほお、俺が支払った金、耳を揃えて返せるのか」

「あ、そうだった、でも、何年かかるか分からないですけど、ちゃんと返します」

 

「別に返さなくてもいい」

 

「えっ」

 

「お前はずっと俺の側にいろ」

 

最上さんはじっと私を見つめて、顎をくいっと上げると私の唇を奪った。

 

私は抵抗出来ずに最上さんのキスを受け入れた。

 

唇が離れた瞬間、最上さんは私を見つめて「一生こき使ってやる」と口角を上げてニヤッと微笑んだ。

 

私は頬を膨らまして怒った表情を見せた。

 

もう、キスでドキッとした私が浅はかだった、やっぱりやな奴。

 

「へえ、怒った顔も可愛いな」

 

可愛いって言葉に恥ずかしくなって俯いた。

 

「飯、買ってきたぞ、食おうぜ、腹減ったよ」

 

あっ、そうだった、お弁当の代金払わないと……

 

「あのう、お昼のお弁当の支払いしないと……」

 

「いいよ、金ないんだろう」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

なんだ、優しいところもあるんだ。

 

次の瞬間最上さんは信じられない言葉を発した。

「お前の俺に対しての借金に加算しておく、一生かかっても返せない額にしてやるから覚悟しておくんだな」

 

はあ?優しいなんて思った私がバカだった、最上さんは鬼だ。

 

「早く飯食うぞ」

 

「私、いりません」

 

「食欲ないのか」

 

「だって借金また増えちゃうから」

 

「バーカ、冗談に決まってるだろ」

 

「えっ」

 

「梨花は俺の妻だ、俺は梨花を養っていく義務がある、俺を頼っていればいい」

 

なんか、真面目な表情で言われて、心臓がドクンっと高鳴った。

 

俺は最上丈一郎、自分で言うのも烏滸がましいが、天才的外科医である。

 

恋愛は大の苦手、優しい言葉をかけられず、恋人との時間は勿体ないと思っている。

 

だから結婚出来ないまま、三十二歳まで独身を貫き通してきた。

 

このまま一生独身でも構わないのだが、親父、つまり最上総合病院医院長が結婚しろと急かしてくる。

 

「俺の勝手だろう」と言っても聞く耳を持たない。

 

モテないわけではない、これでも恋人が切れた期間はない。

ところが、この性格が災いして、また恋人との時間を大切にしない俺はいつも振られる、いや自然消滅だ。

 

来る者は拒み、去る者は追わずと言うスタンスで生きて来た。

 

俺の側にいなければ駄目な理由がなければ、俺との結婚は成立しない。

 

そこに現れたのが鶴巻梨花だ。

 

骨折をして、手術、入院を余儀なくされた。

 

しかし、病院での支払いを金がない為拒否しやがった。

 

待てよ、こいつなら俺が払ってやる代わりに結婚をすると言う契約をすれば、一生こいつは俺の側から離れられないはずだ、しかも俺に愛情を感じてないのだから、一緒の時間を過ごす必要もない。

 

そして鶴巻梨花との契約が成立した。

 

だが、思いもよらず梨花との時間は楽しいと感じている俺がいた。

 

「早く飯食え」

 

「はい」

 

俺は梨花の身の回りの事に手を貸していた。

 

椅子を引いてやり、弁当の蓋を開けて、割り箸を割ってやった。

 

「ありがとうございます、頂きます」

 

梨花は満面の笑みを浮かべて、美味しそうに弁当を口に運んでいた。

「羨ましいです、いつもこんな美味しいお弁当を食べることが出来て」

「ここにいれば、ずっと食べられるぞ」

 

俺はさっきから何を言っているんだ。

 

俺らしくない事を言って、いつもの俺はどこに行ったんだ。

 

「そうですね、でも借金早く返さないといけないですもんね」

 

この時、俺の中で借金はどうでもよかった。

 

いや、病院の支払いは金を貸したんじゃなく俺が支払った、梨花は俺の妻だと言う思いが溢れていた。

 

朝を迎えて私はリビングへ行くと、既に最上さんは仕事に出かけた後だった。

 

テーブルの上には私に宛てたメモが置いてあった。

 

『おはよう、梨花、仕事に行ってくる、また昼飯はコンシェルジュ佐々木に弁当を頼んで置いた、夕飯は俺が買って来るから、ゆっくりしていろ』

 

なんか急に優しくしてくれて、どうしたんだろうと不思議に思った。

 

確かにお弁当は美味しいけれど、毎日って大変な出費だよね。

 

冷蔵庫を開けてみる、何度見ても何もない。

 

キッチンの戸棚を開けてみるとパスタがあった。