ラヴ KISS MY 書籍

 

 

 

第四章 愛してる

 

玲子と僕はマンションへ到着すると、僕は玲子を抱き寄せた。

 

そして玲子の唇を塞いだ。

お互いに息が荒くなり、感情が我慢の限界を超えた。

 

「玲子、玲子」

 

「ああ、光、好き、大好き」

 

「僕も大好きだよ、玲子、ずっと一緒にいような」

 

朝までキスの嵐は止む事はなかった。

 

白々と夜が明けて、朝日が差し込んでいた。

 

隣で寝ているはずの玲子を探した。

 

「玲子、玲子」

 

「はい、キッチンよ」

 

「まだ、ゆっくりベッドに入っていようぜ、今日は休みなんだから」

 

「うん、でもお腹空いちゃったの」

 

「そうか、じゃ、朝飯食うか」

 

二人でキッチンに立って朝食を作り始めた。

 

「そうだ、玲子の親父さんに結婚の許可貰ったぞ」

 

「えっ?嘘!」

 

「嘘じゃねえよ、玲子の気持ち次第だって言ってた」

 

「そうなんだ」

 

「僕が医者だって言ったら、親父さんすごく食いついて来て根ほりは掘り聞かれたよ」

 

「どんな事聞かれたの?」

 

「都築総合病院は継いでくれるのかとか、玲子を愛しているのかとか」

 

「なんて答えたの?」

 

「もちろん愛していますって、それから病院のことはお望みとあらばって答えた」

 

「そうなんだ」

 

「まずかったか?」

 

玲子はちょっと考えてから口を開いた。

 

「戸倉建設はどうするの?光は長男なんだよ、光のお父様は絶対に、光に継いで欲しいに決まってる」

 

「慶がいるから大丈夫だよ」

 

「慶くん?光の弟さんだよね」

 

僕は頷いた。

 

戸倉慶、僕の弟だ、親父は小さい時から慶を可愛がっていた。

 

慶が産まれてまもなく母親は亡くなった。

 

親父は慶が可哀想だと再婚をした。

 

しかし、慶は新しい母親には懐かなかった。

 

慶が五歳の時、既に反抗期だったのか、迷子になって皆んなに心配をかけたことがあった。

僕が医者になりたいと親父に申し出た時も、親父は文句一つ言わず「奨学金で大学に行くんだぞ、やるからには絶対に医者になるんだ」そう言われた事を思い出した。

 

その時から、自分の会社は慶に継がせる気持ちだったんだろう。

 

「慶くんに聞かなくて大丈夫?好きなこと、やりたいことあるかもしれないわよ」

 

「そうだな、ちゃんとお前が継ぐんだって念を押しておくか」

 

「もう、光ったら、それじゃ可哀想よ」

 

「玲子は優しいんだな、僕達の幸せのために慶には犠牲になってもらおう」

 

「また、そんな言い方して、頭下げるんでしょ」

 

僕は玲子に見透かされたと照れ笑いをした。

 

確かに慶に改めて聞いた事はなかった。

 

慶がやりたい事はなんだろう。

 

五歳の時の初恋の相手、葉村美鈴との結婚だったとは、この時は予想もつかなかった。

 

僕は次の日、慶に会いに行った。

 

「慶、頼みがある」

「兄貴、なんだよ、改まって、気持ち悪いな」

 

「戸倉建設をお前が継いでくれ、頼む」

 

「なんだよ、今更、兄貴が医者になりたいって、大学医学部に奨学金を借りて行った時からわかってた事だよ」

 

「そうなんだが、具体的になりそう、いや絶対にそうなるようにするから、頼んだぞ」

 

僕は慶に頭を下げた。

 

玲子の旦那は以前から玲子に惹かれていた。

 

もちろん都築総合病院の次期医院長の立場も狙っていたが、玲子を自分のものにするのが狙いだった。

 

異常なくらいの独占欲が強く、玲子が契約上の妻だけでは我慢出来なかった。

 

特に僕の存在を調べて、嫉妬の炎を燃やしていた。

 

「玲子は誰にも渡さない、他の男に抱かれる事など許さない」

 

だから、離婚は難しい問題だった。

 

玲子はずっと僕のマンションで暮らしてくれていた。

 

僕はその頃、医学部を卒業して、大学病院で勤務していた。

 

玲子の精神状態も気になっていた。

 

剣崎を亡くし、僕に対しての惹かれる想い、そして旦那に対しての精神的ストレスなど、抱える問題は山積みだ。

 

玲子の自分自身の決断が、間違っていた事への後悔と、引き返せない道に迷い込んだどうすることも出来ない現状に、玲子の精神状態はピークに達していた。

 

僕が仕事から戻ると、いつも部屋は暗かった。

 

「玲子、電気もつけずにどうしたんだ?」

 

「光、おかえりなさい、もう、そんな時間?」

 

「ずっと暗い中で何してたんだ」

 

「さっきまで明るかったの」

 

「飯はちゃんと食ったか?」

「うん」

 

そう答えるも、食べた形跡がない。

 

確実に玲子は衰弱して行った。

 

僕は玲子を入院させる事にした。

 

玲子の旦那はそんな情報を得て、都築総合病院へ転院させると言ってきた。

その頃、都築総合病院には精神科は設立されておらず、玲子の親父さん、つまり、都築総合病院の医院長が僕に任せてくれると言う事で、転院は免れた。

 

「戸倉先生、玲子をよろしくお願いします」

 

「はい、僕の専門分野なので、大丈夫です」

 

玲子の親父さんの起点で玲子は僕の患者として、入院を続けることが出来た。

 

毎日、僕が玲子の病室に顔を出すことで、玲子に笑顔が戻ってきた。

 

食事も食べられるようになった。

 

「戸倉先生、都築玲子さん、点滴はもう必要ないでしょうか」

 

担当看護師が僕の指示を仰いできた。

 

「食事はほとんど食べられるようになったみたいだな、とりあえずやめても大丈夫だな」

 

「はい」

 

玲子は個室に入院しているが、誰でも見舞いは可能な状態になっていた。

 

玲子の旦那が玲子の病室に来た事に気づくことが出来なかった。

「玲子、お前は俺の妻だ、この事実は一生変わらない、いい加減俺に大人しく抱かれろ」

玲子の旦那は無理矢理、玲子に覆い被さろうとした。

 

口を押さえられて、声を出す事が出来ずに、玲子は観念した。

 

僕は玲子の様子を見に病室に向かった。

 

ドアを開けると信じられない光景が飛び込んできた。

 

「何をやっているんだ」

 

僕は玲子から旦那を引き離した。

 

「犯罪だぞ、警察を呼ぶ」

 

玲子の旦那は慌てて、病室から逃げ出した。

 

「玲子、大丈夫か」

 

玲子は震えて泣いていた。

 

僕は玲子の上半身を起こしてあげた。

 

そして、ベッドに腰をおろし、そっと抱きしめた。

 

玲子は小さな子供のように泣きじゃくっていた。

 

僕は玲子の肩をぽんぽんとして「大丈夫だよ、大丈夫」と静かに声をかけた。

 

「光、ごめんなさい」

 

「玲子の病室は面会謝絶にしておくよ、僕以外は入れないようにね」