ラヴ KISS MY 書籍

 

 

 

第十五章 ニューヨークの街並み

 

ある日、健が病院へやって来た。

 

「理樹、亜紀はどうなんだ」

 

「ずっと目覚めないよ、検査の結果は腫瘍が見つかって、病理検査をしないと良性か悪性かわからないとの主治医の先生の話だ」

 

「そうか」

 

「腫瘍の摘出手術は受けた方がいいんだが、難しい場所にあるから、術後に麻痺が出る可能性があるとのことだ」

 

「リハビリで回復するんだろ」

 

「ああ」

 

「そうか」

 

「なあ、健、亜紀の気持ちを確かめた時、俺と亜紀は婚姻届にお互いにサインをしたんだ、退院したら、一緒に提出しようと約束した」

 

「そうなのか」

 

「これから婚姻届を提出してくる、立ち会ってくれるか」

 

「わかった」

 

俺は婚姻届を提出し、亜紀と晴れて夫婦となった。

 

亜紀が目覚めた時、どの選択肢を選ぶにしても、俺の目の前から姿を消す事は出来ないようにしたい、俺の妻としての行動を取って貰いたいと思ったからだ。

 

あれ以来、ピクッとも動かない。

 

そんな時、三船が俺の元にやって来た。

 

「東條くん、私、自信ないよ」

 

「なんの自信だ?」

 

「滝本先生との結婚」

 

「その気になったのか」

 

「そうじゃなくて、何回かデートしたら、私に愛想尽かしてプロポーズを取り下げると思ってたのに、この間なんか、デートの帰りに滝本先生のマンションに招待されて、一緒に暮らさないかなんて言われちゃって」

 

「順調でいい事じゃないか」

 

「キスされそうになって、拒んだらすごく落ち込んで、そのまま逃げて来ちゃった」

 

「嫌いなのか、滝本先生の事」

 

「逆よ、どんどん惹かれてどうしていいかわからないの」

 

「また、俺に相談してるところ見られたら、俺が怒られちゃうよ、三船、素直になれ」

 

「うん」

 

そこへ滝本先生が現れた。

 

「あやかさん、東條さんが好きなのか」

 

「ち、違います、ちょっと相談していただけです」

 

「そんなに僕は頼りないのかな」

 

滝本先生はしょぼんと項垂れた。

 

「そんな事ありません、先生にどんどん惹かれていく私をどうすればいいかわからなくなっただけです」

 

「えっ?僕に惹かれていくって言ったの」

 

次の瞬間、滝本先生は三船を引き寄せ抱きしめた。

 

「滝本先生、いけません、ここは病院です、誰かに見られたら誤解されます」

 

「僕たちは結婚するんだから何にも問題はないよ」

 

「滝本先生」

 

「もう一度プロポーズする、僕と結婚してくれ、返事はYESしか受け付けないよ」

 

「はい」

 

俺はその場にいることが悪いような気持ちになったが、三船がはいと返事して安堵した。

 

「滝本先生、三船、おめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

「実は俺と亜紀も婚姻届を提出したんだ」

 

「そうなの?良かったわね、あとは早く目覚めてくれるといいわね」

 

「そうだな」

 

でも、亜紀は全く目覚める気配はなかった。

 

それから一ヶ月の時が流れた。

 

俺はずっと亜紀の傍に寄り添っていた。

 

疲れがピークに達して、居眠りをしてしまった。

 

「理樹さん」

 

か細く弱々しい声で、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

「理樹さん」

 

俺はその声が聞き覚えのある声だと気づいた。

 

亜紀。

 

俺は顔を上げて亜紀を確認した。

 

亜紀は目を開けて俺を見つめていた。

 

「理樹さん、大丈夫ですか?」

 

「亜紀、目が覚めたのか」

 

「はい、私ずっと道に迷っちゃって、理樹さんを探していたんですが、見つけられなくてごめんなさい」

 

「いいんだ、先生を呼ぶぞ」

 

俺は急いでナースコールをした。

 

「亜紀が目が覚めたんで早く来てください」

 

「すぐ伺います」

 

そして、滝本先生と三船がすぐに来てくれた。

 

しばらくは体力の回復を優先するとのことだった。

 

亜紀はしばらくの間点滴をする事になった。

 

俺は亜紀の笑顔を毎日見ることが出来る喜びに浸っていた。

 

「亜紀、大事な話があるんだ」

「なんですか」

 

「俺と亜紀は夫婦になった」

 

「えっ?どう言うことでしょうか」

 

「退院したら一緒に提出しようと約束していた婚姻届は俺が提出しておいた」

 

「そうなんですか」

 

「だから、この先ずっと、亜紀は俺の妻だからな」

 

亜紀は目にいっぱいの涙を溜めて肩を震わせていた。

 

「理樹さん、すごく嬉しいです」

 

「退院したら、ニューヨークへ一緒に行こうな」

 

「はい」

 

そして亜紀は普通食を食べられるまでに体力が戻ってきた。

 

滝本先生は手術の話を亜紀に伝えたいと言ってきた。

 

「なるべく早く手術をしたほうが良いと思われます」

 

「わかりました、俺から亜紀に話します」

 

そして俺は手術の話を亜紀に伝えた。

 

「亜紀、大事な話がもう一つある」

 

「なんでしょうか」

 

「亜紀は脳に腫瘍が見つかった、そのためにめまいや立ちくらみが起こっていたとの滝本先生の診断だ」

亜紀は黙って俺の話を聞いていた。

 

「良性か悪性かは手術をして、病理検査をしないとわからないらしい」

 

「どっちにしろ腫瘍は取り除いておいた方がいいんだが、とても難しい場所にある、だから術後、麻痺が起こる可能性があるとのことだ、でもリハビリで回復するから心配はいらないとの滝本先生からの話だった」

 

「もちろん手術受けるよな」

 

亜紀は俺の話を聞いて考え込んでいた。

 

「少し考える時間をください」

 

「わかった」

 

まさか、この時亜紀が手術を受けない選択をするとは夢にも思わなかった。

 

しばらくして、亜紀は俺に自分の考えを話したいと言って来た。

 

「理樹さん、私手術は受けません」

 

「どうしてだ」

 

「私は理樹さんの妻です、このことはどうあがいても変わることはありません、だからなるべく理樹さんに迷惑かけないで、短い時間でも一緒にいたいんです、手術を受けたらニューヨークには行けないと思います、だからこのまま退院して、一緒にニューヨークへ行きたいんです、私のわがままを叶えてください」

 

「亜紀」

 

「この機会を逃したら夫婦として一緒にニューヨークは行けない気がするんです、それに出来ればおしゃれして行きたいし、車椅子で理樹さんと思い出に残りたくありません」

 

俺は、亜紀の考えもあると思っていた。

 

「滝本先生に相談してみよう」

 

「嬉しい」

 

亜紀は満面の笑みを見せてくれた。

 

まさか、病魔が早いスピードで亜紀を蝕んでいようとは思いもよらなかった。

 

それから俺は滝本先生に亜紀の意向を伝えた。

 

滝本先生は腕を組んで考え込んでいた。

 

側にいた三船は速攻口を挟んできた。

 

「東條くん、そんな事したら手遅れになるわよ、真央の時の事忘れたの」

 

「忘れていないよ、ただ、亜紀の考えもあるかなと思ったんだ、ニューヨークへは十日のスケジュールを組んで旅行を考えている、それからすぐに手術でも間に合うんなら、思い出も残せるし、亜紀の願いも叶えてあげられると思って」

 

ずっと黙っていた滝本先生が口を開いた。

 

「出来ればすぐに手術をお勧めしますが、確かに手術をしたら何年かは旅行は無理でしょう、行くなら今かもしれません、でも……」

 

「十日位進行を止められる薬なんかないんですか」

 

「あのね、勝手な事言わないで、先生を困らせてるんだよ」

 

「あやかさん、僕は大丈夫です、そのかわり少しでも体調に変化があったら、この病院を受診してください、僕の大学時代の親友です、優秀な外科医ですから、ちょうどニューヨークにいるんですよ、連絡しておきますから」

 

「本当ですか、ありがとうございます」

 

「いいですか、絶対に無理はしない事、そして少しでも体調に変化があったら必ず、受診してください、約束ですよ」

 

「はい、約束します」

 

俺はニューヨークへの旅行の許可がおりた事を亜紀に伝えた。

 

「本当ですか、嬉しい」

 

「ああ、俺は早速ニューヨークへの旅行の手続きをする、退院したらうちに帰って早速旅行の準備をするぞ」

 

「はい」

 

それからまもなく退院の許可がおりた。

 

二人でマンションに向かった。

 

「なんか久しぶりです」

 

「亜紀の部屋は元に戻しておいたぞ」

 

「ありがとうございます」

 

二人で見つめ合い、お互いに引かれるように唇を重ねた。

 

「亜紀」

 

「理樹さん」

 

理樹さんの舌が私の唇を割り、侵入して来た。

 

そして、ちゅっと強く吸われて、色っぽい声が出てしまった。

 

首筋から鎖骨へ、そして胸の膨らみを理樹さんは鷲掴みにした。

 

そのまま抱き抱えて寝室へ運ばれた。

ブラウスのボタンを一つ一つ外し、キャミソールからこぼれ落ちそうな胸の膨らみにキスが落とされた。

 

そして理樹さんの手が太腿から私の感じる部分へと滑り込んだ。

 

「亜紀、愛している、お前は俺の妻だ、誰にも文句は言わせない」

 

私は感じる以外に喜びを現す方法を知らなかった。

 

甘ったるい声が徐々に大きくなり、ニューヨークでの熱い夜を思わせるような抱擁が朝まで続いた。

 

目が覚めると窓から朝日が差し込んで、この時初めて生きていたいと感じた。

 

ずっとこのまま、理樹さんと共に、生きて行きたいと……

 

私の横ですやすやと眠っている理樹さん。

 

「私達、もう夫婦なんですね」そう呟くと、その時理樹さんが目を覚ました。

 

「亜紀、ずっと一緒だ」

 

「今の言葉聞こえちゃいましたか」

 

「ああ」

 

ふふっと笑って幸せを噛み締めた。

 

そして私と理樹さんはニューヨークへ出発した。