ラヴ KISS MY 書籍

 

 

 

第十四章 目覚めろ亜紀

 

そんな矢先、会社のことは健に任せっきりだったが、流石は健だと頭が下がる思いだった。

 

愛理お嬢さんとうまく話を進めて、訴訟は取り下げてもらえる事になったと連絡を受けた。

 

愛理お嬢さんの父親の会社とも取引は続ける事に決着がついた。

 

あとは亜紀が目覚めてくれて、検査の結果が大したことがなければと俺は祈るばかりだった。

 

俺はずっと亜紀の側を離れず、精神的ストレスと疲労が蓄積されて、意識を失った。

 

三船が処置してくれた。

 

俺は気づいた時、ベッドに横たわり、点滴を受けていた。

 

「三船、俺はどうしたんだ、亜紀はどうなった」

 

いきなり立ち上がろうとした為、ふらついて床にへたり込んだ。

 

「何やってるの?無理するから身体が悲鳴あげたのよ」

 

「ごめん、俺、三船に叱られてばかりだな」

 

三船は目にいっぱいの涙を溢れさせて訴えていた。

 

「今、目の前で大事な友達が泣いてるのを見て抱きしめたい気持ちだけど、それがいけないんだよな」

 

「当たり前でしょ、そんな事されたら、水本さんから東條くん奪っちゃうよ」

 

俺は苦笑いをしながら頭をかいた。

 

「まだ水本さんは眠ったままよ」

 

「そうか、このまま目覚めないなんてことはないよな」

 

「なんとも言えないわね、様子を見るしかないから」

 

そんな時、三船の口利きで亜紀の病状を俺に話して貰える事になった。

 

「東條理樹さんですね、私は水本亜紀さんの主治医で滝本修二と申します、この度はご本人のご意向で刈谷さん以外には病状を話さないでほしいとの申し出がありましたので、先日のような対応をさせて頂きました、申し訳ありませんでした」

 

「いえ、わかって頂けたなら問題ありません」

 

「検査の結果が出ました、脳の難しい場所に腫瘍が見つかりました、貧血もありますが、血液の病気ではありませんでした」

 

「それで亜紀は大丈夫なんですよね」

 

「腫瘍は良性か悪性か病理検査をしないとわかりませんが、手術をした方が良いと判断致します、ただ、かなり難しい場所ですので、万が一術後麻痺が出てしまう可能性は否定出来ません」

 

「そうですか、少し考えさせてください」

 

「術後の麻痺はリハビリで回復する可能性は十分にあります」

 

「前向きに考えさせて頂きます」

 

「わかりました」

 

「先生のように一生懸命言ってくれると信じてみようかと思えます」

 

「癌で恋人を亡くされた経験があるとお聞きしました」

 

「三船がそう言ったんですか」

 

「はい、すみません」

 

「あの時、本人が手術を拒んで、俺もそんなに嫌ならと彼女の意思を尊重してしまったんです、無理矢理にでも手術を受けさせていれば、死なずに済んだかもしれない、全て俺の責任です」

 

「そんなにご自分を責めないでください、本人の意思は絶対ですから」

 

「いつも三船に叱られてばかりいます」

 

「あのう、ここからは自分のプライベートな質問なので、嫌なら答えなくても大丈夫です」

 

俺は何を聞かれるのか皆目検討がつかなかった。

 

「あのう、三船くんと東條さんの関係を聞かせてください」

 

「三船とは大学時代の同級生です」

 

「三船くんと付き合っていた事はありますか」

 

俺はびっくりしすぎて目をパチクリしてしまった。

 

なんでこんな事聞かれるんだろう、待てよ、この先生、三船に惚れてるのか。

 

「先生、三船の事好きなんですか」

 

先生は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

そう言う事か。

 

「答えてください、三船くんと付き合っていた事はあるんですか、ないんですか」

 

「付き合っていたことがあったらどうするんですか」

 

俺は先生の気持ちを確かめたかった。

 

「今後、二人の距離を弁えて欲しいです」

 

「つまり、今後俺の女に手を出すなってことですか」

 

俺は口角を上げてニヤッと微笑んだ。

 

「まだ、三船くんは自分のものではありません」

 

「まだって事はこれからそうしたいって事ですよね」

 

「いや、その、えっと……」

 

滝本先生はしどろもどろになってしまった。

 

「先生、安心してください、俺と三船は付き合った事はないし、今後そうなる可能性もありません、俺は亜紀を愛していますから」

 

滝本先生は安堵の表情を見せた。

 

俺は亜紀の病室へ向かった。

 

亜紀はまだ目覚めない。

 

どうする、脳の腫瘍、難しい場所ならそのまま放っておく、でももし悪性なら命に関わる。

 

麻痺が残っても、生きていて欲しい、これが俺の本音だ。

 

亜紀はどう思うだろうか。

 

麻痺が残って迷惑かけても、生き延びて俺と共に生きる道を選ぶだろうか。

 

いや、また俺の側から姿を消すんじゃないだろうか。

 

とにかく、亜紀が目覚めない限り、どうすることも出来ない。

 

俺は三船を呼び出し、滝本先生の件を確かめる事にした。

 

「ちょっと話があるんだ、時間大丈夫なら外に出ないか」

 

「これから休憩だから大丈夫よ、何?」

 

「滝本先生からの病状説明と滝本先生のプライベートについての話だ」

 

「私は滝本先生のプライベートは知らないわよ」

 

「まず、亜紀の病状なんだが、腫瘍が見つかった」

 

「えっ?腫瘍?悪性なの?」

 

「病理検査しないとわからないらしいんだけど、ただ難しい場所にあるから、術後に麻痺が残る可能性が大きいって」

 

「そうなんだ、でもリハビリで回復するんでしょ?」

 

「ああ、でも亜紀はそんな状態に自分がなって、俺に迷惑かけるからとまた姿を消すんじゃないだろうかと心配だ」

 

「そうね」

 

「実は真央は手術を拒否してて、本人の望みを優先した、真央がこの世を去ったのは俺の責任だ」

 

「自分を責めちゃ駄目よ、東條くんの責任じゃないわよ」

 

「とにかく、亜紀が目を覚まさないと話にならない」

 

「そうね」

 

「それで滝本先生はどんな先生だ」

 

三船は頭の中で考えながら言葉を発した。

 

「信用おける、腕もいい、素敵な先生よ、人気もあるしね」

 

「そうか、男としてお前はどう思う?」

 

「なんでそんな事聞くの?」

「さっき、聞かれたんだ、俺と三船の関係を」

 

「えっ?どうして?」

 

「すごく仲良さそうに見えたって」

 

「ちゃんとただの同級生だって言ってくれたわよね」

 

「ちゃんと言ったよ、俺が愛しているのは亜紀だって」

 

「そう、それならいいけど、噂はすぐに広まるから」

 

「滝本先生はお前が好きだって言ってたぞ」

 

三船は狼狽えて驚きを隠せなかった。

 

「そ、そんなわけないでしょ」

 

「ほんとだよ」

 

そこに休憩中の滝本先生がやって来た。

 

滝本先生は俺と三船の姿を見つけると、急足で俺の元にやって来た。

 

「東條さん、僕言いましたよね、今後二人の距離を弁えて欲しいと」

 

「すみません、先生の気持ち三船に伝えましたよ」

 

「えっ?」

 

「こいつ、信じてないみたいなんで、先生の口からちゃんと言ってやってくださいよ」

 

滝本先生は恥ずかしそうに俯いた。

 

「ちょっと、何言ってるの、先生を困らせたら駄目じゃない」

滝本先生は意を決したように言葉を発した。

 

「あやかさん」

 

「はい」

 

「僕と結婚してください」

 

いきなりプロポーズ?

 

まっ、俺もそうだったけど……

 

「あの、先生、本気で言ってますか」

 

「僕は本気です」

 

「でもいきなり結婚は無理なので、何回かデートをお願い出来ますか、それでやっぱり私を気に入って頂けたなら、プロポーズお受けします」

 

「本当ですか」

 

滝本先生はいきなり三船を抱きしめた。

 

「先生、困ります」

 

「絶対に離さない、あやかさんは僕のものですから」

 

俺はそうそうにその場を後にした。

 

次の日、三船が亜紀の病室の様子を見に来てくれた。

 

「どう、水本さんは変わりない?」

 

「ああ」

 

「仮眠取ったら?」

 

「わかった、そうするよ」

 

「水本さんの様子に変化があったらすぐに起こすから」

 

「頼むよ」

 

「滝本先生とうまく行きそうか」

 

「まだ、わからないよ、滝本先生は次期医院長だからね」

 

「信じて大丈夫な男だと思うぞ」

 

「うん」

 

俺は仮眠室を借りて身体を横たえた。

 

理樹さん、理樹さん。

 

俺の名前を呼ぶ声の方向に振り向くと、亜紀が俺を呼んでいた。

 

亜紀、目覚めたのか?

 

理樹さん、私もう理樹さんの側にはいられない。

 

何を言ってるんだ、亜紀は俺の側にいればいいんだよ。

 

だって迷惑がかかるから、じゃあ私は行きます。

 

亜紀、どこへ行くんだ、俺を一人にするな、俺を信じろ、亜紀。

 

そこで俺は目が覚めた、汗をかいてシャツが濡れていた。

 

亜紀、亜紀。

 

俺は亜紀の病室へ向かった。

 

まだ亜紀は眠っていた。

 

手を握り「亜紀、亜紀、早く起きてくれ」俺は祈りを捧げた。

 

ピクッと指先が動いたと感じた。

 

「亜紀、わかるか、俺だ」

 

またピクッと動いた、確かに動いた、そして亜紀の手は少しだが、俺の手を握り返した。

 

俺は亜紀の顔を覗き込んだ。

 

唇が微かに震えた。

 

俺はナースコールをした。

 

「早く来てくれ、亜紀の手と唇が動いたんだ」

 

滝本先生と三船が駆けつけてくれた。

 

しかし、その後反応はなかった。