ラヴ KISS MY 書籍
その頃慎も俺と同じく眠れない一夜を過ごしていた。
「ちづる、ちょっといいか」
「はい」
ちづるは部屋から出てきた。
「ちづる、ちゃんと答えてくれ、充を知っているのか」
ちづるは俯いて「知りません」と答えた。
「俺に嘘は言ってないな」
「はい」
ちづるは慎と目を合わそうとはしなかった。
そして俺とちづるの関係を、慎は疑っていた。
俺はどうしてもちづると話がしたかった。
八年前の事、そして何故慎と契約結婚なんかしたのか。
俺に対しての気持ちはどうなのか。
次の日、慎のマンションへ向かった。
ちづるはインターホンの相手が俺だとわかり、狼狽えていた。
「ちづる、開けろ、話がしたい」
ちづるはドアを開けて、俺を招き入れてくれた。
「ちづる、八年振りだな」
「はい」
「どうして八年前、俺の前から姿を消したんだ」
ちづるは俯いて黙っていた。
「確かに連絡しないで、俺はアメリカに渡米した、あの頃結婚の噂もあった、でも結婚の話は、周りが勝手に進めていた事だ」
「えっ?」
「俺の意思じゃない、俺はちづると結婚すると決めていた、だからアメリカから帰って来た時、ちづるがいなかった事に戸惑った、そしてずっと探していたんだぞ」
「そんな……私は連絡もなくて充がアメリカに行っちゃって、結婚の噂もあったから、振られたとばかり思っていたの」
「ちづる」
俺は思わず、八年間の空白の時間を埋めるかのように、ちづるを引き寄せ抱きしめた。
お互い見つめ合い、唇が数センチに迫った瞬間、ちづるは俺から離れた。
「ちづる?」
「駄目、私は今は海堂ちづるなの、だからもう遅いよ」
「何を言ってる、お前たちは契約結婚なんだろ?愛してもいない男と一緒にいる必要はない」
「充、ごめんね、今は海堂さんが好きなの、海堂さんは私をなんとも思ってないと思うけど」
「なんでそう思うんだ」
「きっと今でも、自殺した彼女を愛してると思うの、充、知ってる?」
「ああ」
俺は当時慎に悩みを打ち明けられていた。
彼女に裏切られた時は、信じられないほど落ち込んでいた。
しかし、彼女が慎に救いを求めて来た時、突き放す事は出来ないと、慎の中で答えは決まっていたにも関わらず、俺に相談して来た。
俺は何も言わずに、自分の気持ちのまま進めとアドバイスをした。
慎は彼女と進む道を選んだ。
しかし、彼女の心が折れていた事に慎は気づいてやる事が出来ず、彼女に寄り添ってやる事が出来なかった。
結果、彼女は自殺を選んでしまった。
慎は彼女を確かに愛していた。
でも今も愛し続けているかと問われたら、それはノーだろう。
今はちづるを愛しており、決して同じ過ちを繰り返さないと固く心に誓っている。
しかし、ちづるは自分は愛されていないと思い込んでいる。
俺はこの時、慎の気持ちをちづるに伝える事を怠った。
ちづるを奪い返すと心が震えた。
「ちづる、愛されていない関係ほど不幸な事はないぞ」
「わかってるよ、だから充の時だって、充の前から消えたんだよ」
「なあ、ちづる、慎の前から姿消せ」
「えっ?」
「今度は俺と一緒だ」
「充」
俺はちづるに微笑みかけて、マンションを後にした。
充が帰った後、私は呆然と立ち尽くした。
あの時、充を信じて待っていたら、私は充と人生を歩むことが出来たのだろうか。
でも私は海堂ちづるなんだ。
たとえ、海堂さんが私を愛していなくとも、私は海堂慎が好き。
その夜、海堂さんが仕事から戻ると、急に私を抱きしめた。
「海堂さん、どうされたのですか」
「充は、ちづるを狙ってる」
「そんな事はありません」
「あいつの目は本気だった」
「考え過ぎですよ、私は海堂ちづるなんですよね」
「当たり前だ」
「それなら何も問題ありません、あっ!」
「なんだ、どうしたんだ、急に」
「私が書いた、正確には書かされた離婚届けは処分して頂けましたか?」
「無論破り捨てた、この世に存在しない」
「それなら、海堂さんが私をギュッとしてくれていたら、私はずっと海堂ちづるです」
海堂さんは私を引き寄せギュッとした。
「きゃっ、何するんですか」
「ちづるをギュッとしたんだ」
「もう、そう言う意味じゃありません」
「じゃ、こう言う意味か?」
海堂さんは私を抱き上げて、寝室へ向かった。
「えっ?下ろしてください」
「おろさない、抱いてくれとちづるが言ったんだ」
「そんな事言ってません」
「ちづる、俺とちづるの子供を作ろう」
私は顔が真っ赤になるのを感じた。
「ちづる、顔が真っ赤だぞ、エッチなこと考えただろう」
「そ、そんな事ありません」
ちづるはなんて可愛いんだ。
俺はこの夜ちづるを抱いた。
可愛らしい声、色っぽい唇、ピンク色に染まった肌、絶対に誰にも渡したくないと誓った。
食事もしないで、朝までちづるを求めた。
俺の腕の中ですやすやと寝息を立てるちづるをじっと見つめた。
「ちづる、今日は出かけるか?」
「海堂さんは若いから体力あるかもしれませんけど、私は寝不足で今日はずっとベッドにいたいです」
「じゃ、またする?」
「もう、そう言う意味じゃありません」
俺はちづるにキスをした。