ラヴ KISS MY 書籍

 

 

第六章 八年前の彼との再会

 

私は海堂さんに惹かれたのは、仙道さんと重ね合わせていたから?

 

本当に愛しているのは仙道さん?

 

でも仙道さんとは叶わぬ恋だった。

 

それに八年もの永い年月が流れたのだから、仙道さんは当時の人と結婚しているだろう。

 

私だって海堂さんと契約結婚したんだから既に人妻だ。

 

「ちづる、帰るぞ」

 

「海堂さん、ごめんなさい、私……」

 

「何も言うな、ちづるは俺の妻だ、これから先も変わらない」

 

「あのう、ちょっと聞いてもいいですか」

 

私は仙道さんと海堂さんの関係を知りたかった。

 

「なんだ」

 

「仙道さんとはどのような関係ですか」

 

「仙道?そうだな、悪友だな」

 

「そうですか、アメリカにいらっしゃるんですか」

 

「俺のマンションにいるよ」

 

「えっ?」

 

「今回の件で日本に来日して貰った、ちづるにも会いたがっていたからな」

 

「嘘!」

 

「嘘じゃない」

 

私は狼狽えて戸惑いを隠せなかった。

 

海堂さんは私の信じられない言動に心配の様子を現した。

 

「ちづる、大丈夫か」

「えっ、あ、だ、大丈夫です」

 

どうしよう、全然大丈夫じゃないよ。

 

なんで日本に来たの?

 

私に会いたがっているなんて何故?

 

車の中で私はずっと黙っていた。

 

徐々にマンションに近づくに連れて心臓がドキドキして来た。

 

「ちづる、充は俺とよく似た性格だから、そんなに緊張しなくても平気だ」

 

知ってる、でもどんな顔で会えばいいの?

 

もしかして意識しているのは私だけ?

 

仙道さんは私のことなんかなんとも思っていないのかもしれない。

 

「充」

 

「うまく行ったか?」

 

「ああ、ちづるを奪い返した、ちづると一緒にそっちに向かっている」

 

「そうか、良かったな」

 

八年振りのちづるとの再会。

 

ちづるはどう思っているのだろうか。

 

お前が愛しているのは誰だ。

 

慎なのか、それとも俺か。

 

その時インターホンが鳴った。

 

ドアを開けると、慎が立っていた、慎の背中に隠れるようにちづるの姿があった。

 

「充、ただいま」

 

そしてちづるを自分の背中から前へ押し出した。

 

「充、ちづるだ」

俺はちづるをじっと見つめた。

 

八年前が走馬灯のように蘇る。

 

ちづるはずっと下を向いて俺と目を合わそうとしない。

 

「ちづる、さん、はじめまして、俺は仙道充、慎とは悪友ってとこかな、三十八歳独身」

 

「えっ?」

 

ちづるは俺の独身って言葉に反応して、顔を上げた。

 

八年前と変わらない、可愛らしい顔立ち、プリッとした唇。

 

俺はずっとちづるを見つめたままだった。

 

ちづるも俺を見つめてくれた。

 

俺とちづるのただならぬ関係に気づいた慎は、ちづるの前に割って入った。

 

「ちづる、疲れただろう、寝室で休め」

 

「でも……」

 

「いいから俺の言う通りにしろ」

 

「はい」

 

ちづるは寝室の向こうへ消えた。

 

俺はずっとちづるを目で追っていた。

 

その視線に気づかないはずはなく、慎は俺の胸ぐらを掴み、壁に押し当てた。

 

「おい、ちづるは俺の妻だ、手を出すな、充でも許さない」

 

「わかってるよ」

 

「わかってねえから言ってるんだ、俺とちづるは契約結婚だが、俺は本気だ」

 

「ちづるさんはどうかな?」

 

「何を言いたいんだ」

 

「いや、なんでもないさ、ちづるさんがあんまり可愛いから見惚れたんだ、勘弁しろ」

 

「充、もう、アメリカ帰れ」

 

「おいおい、それはないんじゃないか」

 

「お前がライバルだと勝てる気がしねえ」

 

「それなら引っ込んでろ、ちづるはアメリカに連れて帰る」

 

俺は慎の腕を振り解き、ちづるの寝室へ足を進めた。

 

「駄目だ、ちづるは俺の妻だ、渡さない」

 

「冗談だよ、冗談」

 

「充、冗談に聞こえねえ」

 

俺と慎はしばらく睨み合った。

 

そして俺は慎のマンションを後にした。

 

慎の妻ちづるは、やはり、俺の探し求めていたちづるだった。

 

まさか、同じ女を愛する事になろうとは、誰も予測出来ないだろう。

 

八年も時が経過しているとは思えないほど、ちづるはあの時のままだった。

 

この俺の気持ちはどうしたらいいんだ。

 

ちづるを慎の元に置いたまま、平気なのか?

 

平気でいられるわけがない。

 

しかし、慎からちづるを奪うなど出来るはずもない。

 

俺はその夜眠れない一夜を過ごした。