ラヴ KISS MY 書籍

 

 

 

仙道さんは何が言いたいのかさっぱりわからない。

 

「とにかく、俺の言う通りにしろ」

 

「理由を聞かせてください」

 

「ちづると結婚したい」

 

「どうしてですか」

 

「どうしてもだ、つべこべ言わずにさっさと寝ろ」

 

「仙道さん、お友達のところに行くんですよね」

 

「ここで寝る」

 

「はあ?」

 

「ちづるはゲストルームを使え、鍵がかかるからな」

 

私は恋人でもない男性のマンションに泊まる事になった。

 

朝、コーヒーのいい香りで目が覚めた。

 

ドアを開けてキッチンに向かうと、仙道さんが「おはよう、よくねむれたか?」と声をかけてきた。

 

「おはようございます」

 

「男に連絡したか?」

 

「えっ?」

 

急にそう言われて、私、恋人いる事になっていたんだっけと思い出した。

 

「ああ、はい」

 

「ちづるの男は、ちづるが他の男のマンションに泊まる事に寛大なんだな」

 

「そうですね」

 

「俺だったら、ちづるを迎えに行っちゃうけどな」

 

あ、そう言うものなのかな?

 

付き合った事ないからわからなかった。

 

「ちづるがこの先、困ったことがあったら、すぐに俺に連絡しろ、どこにいても駆けつけるからな、わかったか」

 

「はい、ありがとうございます」

 

仙道さんの笑顔に不覚にもドキッとしてしまった。

 

そんな私の気持ちを読み取ったのか、不意に腕を掴まれて、仙道さんの顔が急接近した。

 

あと、数センチと唇が近づいて、私は我に返った。

 

仙道さんの胸に手を押し当てて、離れた。

 

「恋人は振って、俺にしろ、ちづる」

 

仙道さんにギュッと抱きしめられて、抵抗することが出来なかった。

 

俺はちづるに惚れた。

 

他の男に渡したくなかった。

 

ちづるの男はどんな奴なんだ、他の男のマンションに泊まる事を許すなんて信じられない。

 

俺ならすぐに迎えに行くとこの時は自分の気持ちは変わらないと疑わなかった。

 

しかし、ちづるが困っていた時に仕事を優先してしまったことが、ちづるとの別れになってしまうなど、誰が予想出来ただろうか。

 

そう、あの時、俺はちづるの気持ちを確かめないまま、強引にデートに誘っていた。

「明日も会うぞ、同じ時間に来い、いいな」

 

「はい、はい」

 

「はいは一回でいい」

 

「はい、はい」

 

こいつ、俺を馬鹿にしているのか、でもなんか知らないうちに許してる、不思議な女だ、ちづるは。

 

そしてしばらく俺とちづるはデートを重ねた。

 

ちづるの気持ちはわからないままだった。

 

恋人の存在も確かめないまま時間は過ぎていった。

 

俺は仕事も順調で、親父から会社を任される事になった。

 

「充、お前に会社を託す、社長を継いでくれ」

 

「わかった」

 

「それと結婚しろ、取引先のお嬢さんだ」

 

「はあ?俺は好きな女がいる、その女以外とは結婚しない」

 

「そうか、その娘さんはどこの御令嬢だ?」

 

「どこの御令嬢でもない」

 

見合いを断ったはずだったが、着々と話は進んでいた。

ちづるは俺の見合いの話を聞きつけ、俺の元を去る決断を下していた。

 

そんなちづるの気持ちを知らず、仕事のためアメリカに行く事になった。

 

ちづるは多分俺を試したのだろう。

すぐ来て欲しいと言うちづるの連絡に答えてやることが出来なかった。

 

仕事を優先し、連絡を取る事を怠ってしまった。

 

俺の中にちづるに対して奢りがあった。

 

連絡しなくても、俺の気持ちをわかってくれると……

 

アメリカから戻った俺の元にちづるの姿はなかった。

 

俺は自分の取った行動を後悔し、必死にちづるを探した。

 

しかし、ちづるの行方を探し当てることは出来なかった。

 

あれから八年、まさか海堂慎の妻としてちづると再会する事になろうとは、誰が予想出来ただろうか。

 

まだこの時は知る術はなかった。

 

俺は慎と連絡を取り、合流した。

 

「充、忙しいところ悪いな」

 

「お前が下手に出るなんて気持ち悪いよ」

 

「これから三神の屋敷に向かう、充は俺のマンションで待っててくれ」

 

「わかった、困ったら連絡しろ」

 

「ああ」

慎は三神の元に向かった。

 

そして俺は慎からカードキーを受け取り、慎のマンションに向かった。

 

部屋に入ると、なぜか懐かしい香りがした。

そしてリビングに飾ってあったフォトフレームが目についた。

 

その瞬間、俺は愕然とした。

 

慎と一緒に写っている女性は、俺が八年間探し求めて、見つけられなかったちづるだった。

 

嘘だろ、慎の妻はちづる、俺の愛したちづるだなんて。

 

そうだ、慎とちづるは確か契約結婚だと言っていたな。

 

と言うことは、ちづるは慎に対して愛はないと言うことか。

 

いや待てよ、それなら会社のため、慎のために自分を犠牲にしないよな。

 

もう、ちづるは慎のものになったのか?

 

そんな事を考えていると、全くわからなくなった。

 

その頃、慎は三神の元に向かい、俺との契約の話をした。

 

「なんだと、仙道充と……」

 

三神の顔から血の気が引いた。

 

仙道充の名前に顔色を変えたのは三神だけではなかった。

 

ちづるもまた愕然とした。

 

仙道充、私は忘れようとして忘れられなかった彼の名前に当時のことが走馬灯のように思い返されていた。

 

三神さんとの話し合いは仙道さんの登場により決着がついた。