ラヴ KISS MY 書籍

 

 

 

第一章 俺様御曹司との出会い

 

 

「助けて、いや」

 

「僕と付き合って欲しい、ずっと好きだったんだ、もう我慢出来ない」

 

見知らぬ男の荒い息が、私の首筋にかかった。

 

手首を掴まれ「僕の言う事を聞け」と頬に平手打ちをされた。

 

涙が溢れて抵抗する気力も無くして、私は観念した。

 

意識が遠のく中、言い争っている声が聞こえて、そのまま意識を失った。

 

気づくと、ベッドに横たわり、おでこにタオルが置かれていた。

 

身体中が痛い、私はあの男のものになっちゃったの?

 

タオルケットがかけられた身体を恐る恐る確かめると、ちゃんと服を着ていた。

 

下着もつけていた、多分間一髪のところで助かったのかな。

 

天井が高くて、高級な部屋だとわかった。

 

起きあがろうとした瞬間、部屋のドアが開いて男性が入ってきた。

 

「気づいたか、ずっと眠っていて起きなかったらどうしようと思ったよ」

 

誰?私はどうしてこのベッドに寝ているの?

 

しかもその男性は顔に怪我をして、唇が切れている。

 

殴られた様子がありありと感じられた。

 

一瞬、嫌な光景が脳裏を掠めた。

 

私はアルバイトの帰り道、男性に腕を掴まれ、路地に連れ込まれた。

 

襲われそうになり、意識を失った、それから覚えていない。

 

この男性が助けてくれたの?

 

私を助けてくれて殴られたの?

 

「あのう、その怪我、私のせいですよね」

 

「いや、むしゃくしゃしてたから、一発殴りたかった、ちょうど相手のパンチをくらっちまったってとこだな」

 

「でも、ありがとうございました、助けて頂けなかった私は今頃……」

 

手が震えて涙が溢れてきた。

 

「送ってやるから早く支度しろ」

 

「はい」

 

私はベッドから立ち上がろうとしてバランスを崩した。

 

その男性の腕に支えられる格好になった。

 

「大丈夫か」

 

「すみません、大丈夫です」

 

とは言うものの全く足に力が入らなかった。

 

すると男性は私をひょいと抱き上げた。

 

「きゃっ」

男性と私の顔が急接近した。

 

「そんな可愛い顔してるから襲われるんだろ」

 

私は何も言えなかった。

「もしかして自覚ないのか、男は可愛い顔してる女にこんな事もしたくなるんだぜ」

 

そう言って、男性は私の唇にキスをした。

 

一瞬の出来事にかわす事が出来なかった、でも嫌じゃなかった。

 

私がぼーっとしてると「お前、隙だらけだから襲われるんだよ、しっかり自分の身は自分で守れ」と喝を入れられた。

 

確かにそうかもしれない、おっとりしている性格で、自分でも嫌になる事がある。

 

男性は私を抱きかかえたまま、車まで行き、私を助手席に座らせた。

 

「住所は?」

 

男性に住所を聞かれて答えた。

 

私の教えた住所をナビに入れて車は発進した。

 

「三十分位だから目を閉じててもいいぞ」

 

男性に促されて私はそっと目を閉じた。

 

しばらくして私は眠ってしまったようで、男性に声をかけられて目が覚めた。

 

「おい、着いたぞ、このアパートか?」

 

ハッとして見慣れた景色が目に飛び込んできた。

 

「痛い」

身体中に激痛が走る。

 

「大丈夫か」

 

「はい、大丈夫です、ありがとうございました」

「誰かと一緒に住んでいるのか」

 

男性に聞かれて、躊躇することなく「一人です」と答えた。

 

「お前さ、俺に住所教えて、一人暮らしって答えて、もし俺が奴の仲間だったらどうするんだよ、ほんと隙だらけなんだから」

 

そんなこと言われたって、助けて貰ったんだから信じるでしょ。

 

私が俯いてると男性は私にとんでもない事を投げかけた。

 

「二、三日分の泊まりの支度してこい」

 

「えっ?」

 

「言われた通りしろ」

 

「あっ、はい」

 

何?凄い俺様、自分中心に世界が回ると思ってるタイプだ。

 

この時私はある人物を思い返していた。

 

八年前巡り会った男性、アメリカに行くことになり、私は振られた。

 

なんかよく似ているな、まるで彼と一緒にいるみたいな錯覚に陥った。

 

私は部屋に入って、言われた通りに、二、三日分の泊まりの支度をした。

 

私から荷物を受け取ると、後部座席に荷物を放り投げた。

 

そして、私を助手席に押し込んだ。

 

そう、助手席に座るようにエスコートしたのではない、押し込んだと言う表現が的確だ。