ラヴ KISS MY 書籍
マンションに向かい、美鈴に怒りの矛先を向けた。
「失礼します、少しお話よろしいでしょうか」
「はい」
私は週刊誌の記事の件だと察しがついた。
「週刊誌の掲載された記事に弊社は多大なる迷惑を被っております、はっきり申し上げて、慶、いえ、社長は辞任を免れない状況です、奥様の存在が社長を追い込んでいるんです」
私は愕然とした。
でもその事で最近の慶さんの言動が理解出来た。
私の存在は慶さんに取って迷惑でしかない。
「よくご自分の置かれている立場を考えて、何をすればいいかお考えください、失礼します」
真莉さんはマンションを後にした。
俺は週刊誌の記事の対応に追われ、美鈴の変化に気づけなかった。
ある日、最近美鈴の笑顔を見ていないことに気づき始めた。
そう言えば美鈴との間で会話がない。
俺は疲れ切っていて、仕事から戻ると、シャワーを浴びて、テーブルに用意してくれた飯を食う。
食ってる間も会話がなかった。
俺は週刊誌の対応のことで頭がいっぱいだった。
「ごちそうさま」
美鈴の返事はない。
週刊誌の記事が掲載されて以来寝室も別だ。
美鈴の変化に気づいて、俺は愕然とした。
いつからだ、美鈴と会話していない。
そう言えば、「いってらっしゃい」も「お帰りなさい」も言ってもらっていない。
俺とした事が、なんたる失態だ。
俺は飯を食う時、美鈴に声をかけた。
「美鈴?今日は何か変わったことはなかったか?」
美鈴は首を縦に振っただけだった。
美鈴は俺と目を合わそうとしない。
どうしたと言うんだ、怒っているのか、それとも何か悩みがあるのか。
「美鈴、ごめん、俺は最近忙しくて美鈴に冷たくしてるよな、ごめんな」
美鈴は黙ったままだ。
もしかして、具合が悪いのか。
「美鈴、どこか具合でも悪いのか」
やはり、美鈴は黙ったままだ。
俺はどうしていいか分からず、兄貴に相談した。
「兄貴、美鈴の心が読めない、どうすればいいんだ」
「何があったんだ、ちゃんと説明しろ」
俺は最近の美鈴の言動を説明した。
「そうか、週刊誌の記事は美鈴ちゃんにとっても、会社にとっても大打撃だな」
「俺は美鈴と別れる気持ちはさらさらない、しかし役員共がうるさくて仕方ない、何か良い方法をと考えていたら、美鈴まで気が回らなかった」
「多分、お前の言動に不信感を抱いたんだろう、そのため素直な気持ちになれずにいるんだと思う」
「そうか」
「後もう一つ、自分の事で迷惑をかけていると判断してお前から離れようとしている」
「それもあるな」
「一番厄介なのは本当に病んでいる状態だ、診察したいんだが可能か」
「どうやって連れて来ればいい?」
「病院ではなく、兄に会わせたいと言って連れてこい、俺の家にな」
「わかった」
俺は美鈴に兄貴を紹介したいと申し出てみた。
「美鈴、兄貴が美鈴に会いたがっているんだが、今度一緒に行ってくれるか?」
あれ以来、美鈴と会話は交わしていない。
この時もちょっと考えて、頷いただけだった。
俺は美鈴の笑顔がみたい、美鈴と話をしたいとただそれだけでいいと願っていた。
兄貴のマンションに美鈴と訪ねた。
「美鈴、俺の兄貴だ」
美鈴は軽く会釈をしただけだった。
「はじめまして、僕は都築光と言います、都築総合病院で医者をしています、慶のどこに惹かれたのかな」
美鈴は答えに困っていた。
「じゃ、僕がいくつか答えの選択肢をあげるから一つ一つイエスノーで答えてくれるかな」
美鈴は頷いた。
「優しい」
美鈴は頷いた。
「そうなんだ、じゃあ、甘ったれ」
「兄貴、俺は甘ったれじゃないよ」
「そんなのわからないだろう、美鈴ちゃんがお前のどこに惹かれたのかなんだから」
美鈴は一生懸命考えていた。
「甘ったれはどう?」
美鈴は頷いた。
「えっ?俺は甘ったれかよ」
「そんな事ないで……」
美鈴が喋った。
「慶、飲み物買ってこい」
「でも……」
「いいから行ってこい」
俺は黙って兄貴の指示に従った。
「美鈴ちゃん、どう言うことか説明して」