ラヴ KISS MY 書籍
第五章 元彼女の秘書の存在
「お忙しいところお集まり頂きましてありがとうございます、わたくしごとではありますが、この度、葉村美鈴さんと入籍を済ませました事をご報告させて頂きます、これから公私共に精進して参りますのでよろしくお願い致します」
慶さんと一緒に頭を下げた。
全て無事に終わり、会場を出ると、そこから慶さんとは離れて行動することとなった。
「奥様、お疲れ様でした、この後社長は打ち合わせがございますので、先にマンションに帰っているようにとの伝言です、それと食事は済ませて帰るとのことです」
「わかりました」
わかってる、社長は忙しいんだから、でも慶さんが直接言ってくれてもいいと思うけど……
「あのう、化粧室に寄りたいんですが」
「廊下の突き当たりを右です」
「ありがとうございます」
私は化粧室の個室に入っていると、女子社員の噂話が耳に入って来た。
「ねえ、なんで社長はあの人を奥さんに選んだんだろうね」
「ほんと、真莉さんと結婚するとばかり思ってたけど」
「あの二人別れたのかな、もしかして奥さんになると秘書は難しいから、真莉さんは愛人だったりして」
「じゃあ、まだ、続いてるって事?」
「だって、あの身体、社長は離れられないでしょう」
「だよね、二十五なんだから我慢出来ないでしょ」
「あの奥さんじゃ社長を満足させられないよね」
私は個室から出られずにいた。
やっと、女子社員が出て行った。
やっぱり、恋人だったんだ、いや、今も恋人同士なんだ。
だから、私とプラトニックでも大丈夫って言ったんだ。
今日だって、打ち合わせとか言ってたけど、デートだったりして、食事いらないっていってたし。
私は化粧室から出て、ビルの出口にふらふらと歩いて行った。
出口で運転手の山田さんが待機してくれていた。
「奥様、マンションまでお送り致します」
「あのう、大丈夫です、電車で帰ります」
「それでは私が社長に叱られます」
「大丈夫ですよ、メールしておきますから」
私は一人で駅に向かった。
マンションの最寄り駅に着いたが、マンションに戻る気持ちになれなかった。
どうして、真莉さんと結婚しなかったんだろう。
今頃二人は愛を確かめ合ってるんだろうか。
二人の愛し合う姿が脳裏を覆った。
振り払っても、振り払っても消えない。
やだ、私ヤキモチ妬いてるの?
慶さんを拒絶してるくせに何勝手な事言ってるんだろう。
私はマンションの裏にある公園でぽつんと一人座っていた。
辺りは既に暗闇に包まれて、相当の時間が経過していた。
俺は打ち合わせが終わると、すぐに美鈴の待つマンションに帰ろうとしていた。
「慶」
俺の名前を呼んだのは真莉だった。
「お疲れ様、今日は美鈴が世話になったな」
「お安い御用よ、それよりご飯食べて帰らない?」
「ああ、ごめん、美鈴が食事の支度して待ってるから帰るよ、また、明日よろしく」
慶、なんであの人を選んだの?あの人より私の方が魅力的なはずなのに……
真莉が俺の背中に向けて、悔しい思いをぶつけて来た事など知る由もなかった。
俺は運転手山田の車に乗った。
「美鈴をマンションまで送って貰って助かったよ」
「あのう、奥様からメールは送られて来ていませんでしょうか、電車でお帰りになるとおっしゃっていました」
「そうか、どこか寄るところがあったのかな」
俺はまさか美鈴が悩んでいた事など気づく事が出来なかった。
マンションに着いてコンシェルジュ牧野に美鈴が何時に戻ったか尋ねた。
「お帰りなさいませ、美鈴様はまだお戻りになっておりません」
「えっ、まだ戻ってないのか」
美鈴、どこへ行ったんだ。
俺は美鈴を探す為、マンションを出た。
その頃、私はまだマンションの裏の公園にいた。
そんな私に見知らず男性が声をかけて来た。
「戸倉美鈴さんですよね、私は週刊誌の記者の後藤と申します、ちょっとお話よろしいですか」
嫌な予感が脳裏を掠める。
「すみません、失礼します」
「ちょっと待ってくださいよ、十五年前の未遂事件の件なんですが……」
週刊誌の記者の方は私の行手を遮り、立ち塞がった。