ラヴ KISS MY 書籍
それなのに突然降って湧いて来た結婚話、しかも相手は父の会社の借金を払ってくれる条件に、私と結婚させて欲しいなんて。
父にしてみれば、戸倉さんは神様みたいな存在だろう。
借金払ってくれて、売れ残ったアラフォー娘を貰ってくれるのだから。
でも私にしてみれば、十五歳も年下の御曹司との結婚、幸せになれる気がしない、戸倉さんは何を企んでいるのか、勘ぐりたくなるのが当たり前だ。
ドアをノックした。
「入りなさい」
と父の声がした。
「失礼します」
ドアを開けて部屋に入ると、戸倉さんと思われる男性と目が合った。
その男性は私の姿を確認すると、いきなり立ち上がりツカツカと私の目の前に歩み寄った。
じっと見つめ合い、その男性は私にこう言った。
「美鈴さん、自分と結婚してください」
そして私の手を握り手の甲にキスをした。
一瞬時が止まったかのような錯覚を覚えた。
はじめて会った男性にプロポーズされて、戸惑いを隠せなかった。
私は慌てて手を引っ込めた。
戸倉さんは躊躇することもなく、更に一歩私に近づき「食事に行きましょう」と私をエスコートしてくれた。
そして父に「美鈴さんをお借りします」と言って私を連れ出した。
玄関の前に停めてあった高級車の助手席のドアを開けて「乗ってください」と私を車に乗るように促した。
私は仕方なく戸倉さんの車に乗った。
「美鈴は何が好き?」
いきなり呼び捨て?美鈴なんて呼ばれたのは両親以外初めてのこと。
私は何人かの男性と交際経験はあるが、いつも葉村さんで終わってしまう。
つまり、最後までいった事がない。
いざとなると悪夢が脳裏を過る。
「どうかした?」
彼の問いかけに驚いてしどろもどろになってしまった。
「いえ、あのう、ちょっと」
彼は急に笑い出し「美鈴と一緒だと楽しいなぁ」とポツリと言葉を発した。
何?私からかわれてるの?
「食事はイタリアンでいいかな」
「はい、大丈夫です」
そして高級レストランへ車を走らせた。
食事をしながら、いくつか質問をした。
「あのう、結婚相手、妹と間違えていませんか」
「間違えてないよ、俺が結婚したいのは美鈴だよ」
また、美鈴って呼び捨てにされて心臓の鼓動が加速し始めた。
「新居は俺のマンションでいいよな、食事終わったら案内するから」
えっ?彼のマンション?いきなり急すぎでしょ。
なんとか帰る方向に持っていかないと。
「私、帰ります、門限が……」
「門限?」
もっとまともな嘘がつけないのかと自分の愚かさに情けないと感じた。
彼はスマホを取り出すと電話をかけはじめた。
『戸倉です、今美鈴さんと食事をしているのですが、これから新居になる自分のマンションへ案内しようかと思っています、門限があるとお聞きして、少し遅くなってもよろしいでしょうか』
『はい、わかりました、では後ほどお送り致します』
彼はスマホをテーブルの上に置いた。
「門限ないから大丈夫ですってお父さんの許しを貰ったよ」
私は嘘がバレたと恥ずかしくなり俯いた。
「外泊の許可も貰ったけど、どうする?俺のマンションに泊まる?」
「泊まりません」
今日会ったばかりで泊まれるわけないでしょ、何を考えているんだろうと驚きすぎて着いて行けないと思った。
「残念、じゃあ、新居見るだけ見て貰おうかな」
食事が終わると、彼のマンションに案内された。
凄いタワーマンション、まるで高級ホテルを思わせる佇まいだ、入り口のオートロックを開錠して中に入ると、コンシェルジュが挨拶してくれた。
「当マンションのコンシェルジュ牧野と申します、戸倉様にはいつもお世話になっております」
「はじめまして、葉村美鈴と申します」
「美鈴は俺と結婚してここに住むからよろしくな」
「左様でございますか、おめでとうございます」
私は慌てて訂正しようとしたが、彼は透かさず私の手を握ってエレベーターへ向かった。
「私はまだお返事はしていません」
「美鈴が断るとお父さんの会社が倒産しちゃうよ」
「脅迫するんですか」
私はちょっとカチンと来た。
「美鈴怒った顔も魅力的だな」
「私、帰ります」
彼に背を向けてエレベーターの方向へ歩き出した。
その時、彼は私の手を掴んで抱き寄せた。
「美鈴、帰らないで、ごめん、言いすぎた、怒らないで」
「離してください」
「離さない、ずっとこの時を待っていたんだ、ここまで来たんだから部屋見て」
彼は私の肩を抱いたままドアにカードキーを差し込んだ。
部屋に入ると、大きな窓から夜景が広がった。
「わあ、素敵」
「美鈴、気に入った?」
「凄く綺麗です、こんな夜景を毎日見られるなんて羨ましいです」
「ここに引っ越して来たら毎日見られるよ」
彼はそう言って、私の腰を引き寄せた。
彼の顔が急接近して、心臓の鼓動が加速し始めた。
彼は私の唇を塞いだ。
えっ?キス?どうしよう。
次の瞬間、彼の手が私の太腿に触れた。
悪夢が蘇って「イヤ!」と彼を突き飛ばした。
彼はびっくりした表情で必死に謝って来た。
「ごめん、凄く可愛かったから我慢出来なくて先走り過ぎた」