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ラヴ KISS MY 書籍

 

 

俺は仕事を終え、あゆみが待つマンションへ向かった。

 

「あゆみ、ただいま」

 

「お帰りなさい、今日もお願いしてしまってすみませんでした」

 

「全然大丈夫だよ」

 

俺は友梨ちゃんのおめでたの話をあゆみに振ってみた。

 

「あゆみ、もしかして具合悪いのって子供出来たのかな」

 

「えっ?違います」

 

「そうか、友梨ちゃんがおめでたかもなんて言うから、もしかしてって期待しちゃったよ」

 

「すみません」

 

「じゃあ、今晩も頑張るかな」

 

「あのう、ごめんなさい、今日も寝室別でお願いします、やっぱり体調が思わしくないので」

 

「そうか、わかった」

 

俺は避けられてるのか、理由はなんなのか皆目見当がつかなかった。

 

次の日もあゆみは店を休んだ。

 

そこへヒカルがやって来た。

 

「麻生さん、頑張ってますね」

 

「ヒカル」

 

ヒカルは店外デートに行くところでスーツ姿で決めていた。

 

そこに友梨ちゃんが「いらっしゃいませ」と奥から出て来てヒカルに挨拶をした。

 

二人は見つめあって、お互いに相手を意識している様子が伺えた。

 

「ヒカル、友梨ちゃんはお嬢様なんだから手を出すなよ」

 

「そんな事しませんよ」

 

積極的な友梨ちゃんはヒカルに声をかけた。

 

「ホストさんですか、めっちゃカッコいいですね、私、友梨です」

 

「ああ、俺はヒカルって言います、今度是非店に来てください」

 

「はい」

 

「友梨ちゃん、ヒカルに食べられちゃうから気をつけて」

 

「麻生さん、俺、そんな事しませんよ」

 

「本当か」

「それより、今日もあゆみさん、お休みですか」

 

「今日もって、どう言う事だ」

 

ヒカルは深呼吸をして語り始めた。

 

「昨日、あゆみさんに会ったんです、そしたら麻生さんの頑張りを悲しそうに話していました、麻生さんの接客を目の当たりにしてヤキモチ妬いたんですよ」

 

「ヤキモチ?」

 

「気づいていないんですか、まるでホストですよ」

 

「確かに、あゆみさん顔を背けてました」

 

そう言ってヒカルの意見に賛同したのは友梨ちゃんだった。

 

俺は完全に狼狽えた。

 

「だから、店に来たくなかったのか、夜も寝室別だったし……」

 

「よく考えた方がいいですよ、あゆみさんのために、麻生さんが頑張れば頑張るほどあゆみさんを追い詰めているんです」

 

「俺はどうすればいいんだ」

 

「夜の世界に戻りましょう」

 

「その手に乗るか」

 

「だって麻生さんがこの場所にいる限りあゆみさんの居場所はないんですよ」

 

俺は黙ったまま俯いた。

 

俺がやってきた事があゆみを苦しめていたなんて。

 

その日仕事を終えてマンションに向かった。

 

「あゆみ、あゆみ」

 

「お帰りなさい」

 

俺はあゆみを抱きしめた。

 

急な俺の行動にあゆみはびっくりしていた。

 

「どうしたんですか」

 

「俺はあゆみだけを愛している」

 

そして、あゆみを抱き上げて、寝室へ運んだ。

 

「凌、待ってください」

 

「待てないよ、あゆみに悲しい思いをさせて、俺はそのことに気づきもしないで、放って置いたんだからな、ごめん、俺の軽率な行動で俺は……」

 

あゆみを抱こうとした時「待ってください」とあゆみが俺の手を止めようとした。

 

目に一杯の涙が溢れて肩を震わせていたあゆみが俺をじっと見つめた。

 

「凌、私はヤキモチを妬きました、凌の接客を目の当たりにして、なんか凌が違う世界の人に見えて、私を愛してくれている事が不思議で、いつかは遠くに行ってしまうんじゃないかと不安になって、凌の接客は見たく無かったんです」

「あゆみ」

 

「私の為に一生懸命な凌に、私は何もしてあげられなくて……」

 

俺は堪らずあゆみを抱き寄せた。

 

「あゆみは俺に新たな人生をくれた、愛する事に希望を無くし、仕事だけと思っていた矢先に余命宣告されて、夢も希望もなくしていた俺の目の前にあゆみは現れたんだよ」

 

「私に取っても凌は、仕事も恋人もなくて、このまま人生終わっていくのかなって思っていた矢先に現れた白馬の王子様です」

 

「白馬の王子様は大袈裟だよ」

 

「今回だって、ホスト辞めてまでも私の夢の為に頑張ってくれたのに、私はヤキモチ妬いて恥ずかしいです」

 

「めっちゃ嬉しいよ、今晩は寝かせないからな」

 

あゆみはちょっと困った表情を見せた。

 

「どうした?」」

 

「あのう、生理が遅れてて、もしかして出来たかなって、だから様子見たいんです」

 

「えっ?マジ?」

 

「だから、今日も寝室は別でお願いします」

 

俺は嬉しいような悲しいような複雑な心境だった。