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ラヴ KISS MY 書籍

 

 

 

 

「ねえ、凌」

 

「あっ、自分の店を持ちたいらしい、だからちょっとノウハウ聞きたいんだ、蘭にしか頼めない事だから」

 

「そう?それなら凌のスマホに送っておくね」

 

「助かるよ、感謝してるよ」

 

「まさか浮気相手じゃないわよね」

 

「違うよ、あゆみだよ」

 

「えっ?あゆみさんが?加々美社長の元で働いていたの?」

 

「ああ、俺と別れた後な」

 

「そんなに優秀なんだ」

「みたいだぜ」

 

「ライバルとして申し分ないわね」

 

行きつけのコーヒーショップで蘭と話をしていた。

 

そこをヒカルに見られた。

 

「麻生さんは今更なんで蘭子さんと会っているんだろう、まさか浮気?まさかな、それじゃあ新しい店舗への誘い?」

 

ヒカルは俺が新たなホストクラブをオープンさせる準備を着々と進めていると勘繰ったのである。

 

次の日、俺のマンションのインターホンがけたたましく鳴った。

 

あゆみが応対すると、ヒカルが勢いよく部屋に入って来た。

 

「麻生さん、どう言う事ですか?」

 

「なんだよ、いきなり、どう言う事ですかってこっちが聞きたいよ」

「なんで今更蘭子さんと会っていたんですか?浮気じゃないですよね」

 

俺はヒカルの言葉に戸惑った。

 

もちろん浮気がバレたとそこではない、蘭と会っていたところを見られた事に戸惑ったのである。

 

あゆみは表情一つ変えずにヒカルの言葉を聞いていた。

 

俺は一瞬あゆみを見た。

 

それに対してあゆみは落ち着いた表情で俯いた。

 

それが何を意味するのか、呆れたのか?それとも俺を信じてくれているのか?あゆみの表情からは読み取ることが出来ずにいた。

 

「ヒカル、俺は浮気はしてねえ」

 

「それはそうですよね、奥さんの前で自分の浮気を認める奴はいないですから」

 

「誤解だって!」

「じゃあ、今更なんで蘭子さんと会っていたんですか」

 

「それは……」

 

まさかあゆみに店をプレゼントするから相談にのって貰っていたとは今の時点で言えない。

 

「それとも新しいホストクラブオープンの為誘っていたんですか?」

 

「違うよ」

 

「麻生さん、蘭子さんとは特別な関係でしたよね」

 

「おい、ヒカル」

 

「あゆみさんには知られちゃまずいんですか」

 

「特別な関係って誤解される様な言い方するなよ、大変な時に世話になった恩人だ」

 

ヒカルはあゆみの手を握って「麻生さん、本当の事を話してくれるまで、あゆみさんは俺が預かります」そう言ってあゆみを連れて行こうとした。

俺はヒカルの手からあゆみを奪い取り、自分の背中に回した。

 

「あゆみは俺の妻だ、あゆみに対して何も疾しいことはしていない、さっさと仕事に行け」

 

この時俺の背中にあゆみは頬をつけた。

 

ヒカルは仕方なく仕事に向かった。

 

俺は背中に回したあゆみの方に振り返り、引き寄せて抱きしめた。

 

あゆみも俺の背中に手を回しギュッと俺を抱きしめた。

 

「あゆみ、俺は浮気なんかしてないし、疾しいことは何もない、信じてくれ」

 

「わかりました、でももし、夜の世界に戻ると言うのであれば私は反対はしませんよ」

 

「戻らねえよ」

 

「はい、はいわかりました、今日は凌の病院の日ですよ」

 

「そうだった、体調いいから忘れてたよ」

 

「ランチ済ませたら出かけましょうね」

 

「ああ、そうしよう」

 

俺とあゆみは病院へ向かった。

 

俺は脳腫瘍で余命宣告を受けていた。

 

手術で生存率は上がるが認知機能障害の後遺症が俺の中のあゆみの記憶を消した。

 

俺は何度もの奇跡によりあゆみを愛した。

 

これから先脳腫瘍の再発と認知機能障害によりあゆみの記憶が消える可能性は無いとは言い切れないと言われている。

 

爆弾を抱えている俺との夫婦生活を、あゆみはどう思っているのだろうか。

 

俺はあゆみに俺の全てを残したい。

あゆみの望みである花屋の店、そして俺との子供。

 

俺の人生はこの先いつまでなのか、誰にも分からない。

 

あゆみの望みを残された人生で成し遂げなければならない。

 

先生の診察は順調だとの事だった。

 

「このまま、お薬を続けて、再発防止に頑張りましょう」

 

「はい」

 

「記憶障害はその後如何ですか」

 

「大丈夫です」

 

「そうですか、それは良かったですね」

 

それから薬を貰いマンションへ戻った。