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ラヴ KISS MY 書籍

 

 

「と言うわけで、新オーナーはヒカルなんだ」

「そうでしたか、ヒカルくん多分毎日来ますね、きっと」

 

「えっ、それはそれで困るな」

 

俺とあゆみは笑って見つめあった。

 

その夜、あゆみを抱いた。

 

あゆみの可愛らしい声、感じている表情、恥ずかしそうに手で隠そうとした胸に俺は顔を埋めた。

 

「ああっ」

 

「あゆみ、愛してる」

 

俺の愛の炎は朝まで消える事はなかった。

 

朝、目覚めると、隣にいるはずのあゆみの姿がなかった。

 

「あゆみ、あゆみ」

 

「はい、キッチンにいます」

 

俺は急いでキッチンにいるあゆみを背中から抱きしめた。

 

「凌、どうしたんですか」

 

「なんか急に心配になって……」

 

俺は何もなくなった自分に自信がない。

 

生活面ではなんの心配もないが、何かあゆみに子供以外に残してあげたいと、ずっと考えていた。

 

「今日一緒に買い物行くか」

 

「はい」

俺はあゆみと買い物に出かけた。

 

路面店の花屋の前を通りかかると、あゆみは「ちょっと寄ってもいいですか」と俺に伝えた。

 

あゆみは目を輝かせて、花を見ていた。

 

加々美の店を無理矢理辞めさせる結果になって、あゆみは残念だっただろう。

 

俺はある事を思いついた。

 

次の日、すぐに実行に移した。

 

「あゆみ、俺出かけてくるな」

 

「はい、どこに行くんですか」

 

「うん、仕事探し」

 

「わかりました」

 

この時あゆみは俺をホストに戻そうと考えていた。

 

あゆみは俺が出かけた後、ヒカルのところへ足を運んだ。

 

「あゆみさん、どうしたんですか、麻生さんはどうしたんですか」

 

「仕事探しに出かけたの」

 

「ホストなら引っ張りだこなのにな」

 

「そうだよね、私が無理させてるよね」

 

「そんな事ないと思いますよ、男は惚れた女のために無理する生き物ですから」

 

「でも……」

 

その頃俺は店舗探しに必死だった。

 

「麻生社長、新たにホストクラブオープンですか」

 

知り合いの不動産屋に相談するとそんな事ばかり言われる。

「いや、花屋の店舗を探してるんだ」

 

「はい?花屋ですか?」

 

その度に驚かれる、それはそうだろう、俺をはホスト業界では知らない奴はいないからな。

 

そのうちに俺が新たなホストクラブをオープンすると言う噂が流れ始めた。

 

夕方、俺のマンションのインターホンが鳴った。

 

「麻生さん、どう言う事ですか?」

 

「なんだよ、藪から棒に」

 

「新しい店出すって本当ですか」

 

「はあ?なんだそれ」

 

ヒカルには何も話していなかったため、ヒカルのところに問い合わせが殺到したみたいだ。

「麻生さんが新たなホストクラブをオープンさせる、そのため店舗を探してるって」

 

「誤解だよ、俺は夜の世界から抜けたんだ」

 

「この間、不動産屋が訪ねてきて、どの位の店舗をお望みでしょうかって」

 

「とにかく、ホストクラブをオープンさせるために店舗探ししてないよ」

 

「早く仕事行けよ」

 

「わかりました、麻生さんを信じていますから」

 

ヒカルは渋々仕事に出かけた。

 

まさかヒカルのところに不動産屋が訪ねてくるとは大誤算だった。

 

ヒカルには言っておくべきだったかなと考えを巡らせていた。

 

その時、あゆみが口を開いた。

 

「私は凌がホストのお仕事をする事に賛成ですよ、でもヒカルくんと一緒には出来ないんですか」

 

「あゆみ、俺は夜の世界に戻るつもりはない」

 

あゆみは納得していない表情を見せた。

 

この時はあゆみの表情になんの違和感も感じなかった。

 

俺は店舗探しの傍ら、花屋のノウハウを学ぶ為、ホストクラブ時代の常連客だった女性に連絡を取った。

 

フラワーアレンジメント蘭の女社長、真壁 蘭子だ。

 

「どうしたの?凌、夜の世界に戻ったの?」

 

「戻らねえよ、ちょっと蘭に相談あるんだけど」

 

「だって新たな店オープンするって、もっぱらの噂よ」

 

「はあ?新たな店出すけど、ホストクラブじゃねえよ」

「どう言う事?」

 

「花屋をオープンしたいんだ」

 

蘭は全てを見透かした様な表情を見せた。

 

「凌、惚れた女に店を買ってあげるのね」

 

「違うよ」

 

蘭は疑いの眼差しで俺を睨んだ。

 

「まっいいわ、それでその女は経験あるの?」

 

「ああ、加々美フラワーアレンジショップって知ってる?」

 

「知ってるも何も有名な会社よ、えっ?そこで働いていた人?」

 

「ああ、訳あって辞めたんだけど、相当優秀だったって、社長の加々美が言ってた」

 

「凌、加々美社長と知り合いなの?」

「うん」

 

俺が頷くと、蘭はびっくりした顔を俺に向けた。

 

「その加々美社長の元で働いていた女性が店舗を探しているの?」

 

「ああ」

 

「ねえ、私のところで働いて欲しいんだけど」

 

「ダメだよ」

 

「どうして?また花に携わる仕事を探しているんでしょ?」

 

俺は答えに詰まった。

 

別に仕事を探している訳じゃないし、あゆみには内緒だからな。

 

蘭はいつも俺を応援してくれる頼もしい存在だ。

 

病気で仕事を休んだ時も無理しないでねと心配してくれた。

あゆみと結婚したことも蘭には報告していた。