ラヴ KISS MY 書籍
「俺はホストを辞める、店も人手に任せて、あゆみと一緒の時間を増やすよ」
あゆみは戸惑いを隠せない様子だった。
「ホストを辞める?」
「ああ、昼間の仕事をしようかと思っている」
「凌に取ってホストは天職だって言っていたじゃないですか、それに夢だったんですよね、自分の店を持つ事」
「そうだよ、でも二十三の時、手術をしないと余命ニ年って医者に言われて、このニ年で絶対に店を軌道に乗せるんだって、ガムシャラに頑張って来た、二十歳の時の恋以来ときめく女性が現れず、丁度いいって思ってた、余命ニ年で恋してる場合じゃないって思ってたからな」
あゆみは俺の話を黙って聞いていた。
「ニ年が経った頃、体調の変化も無く、店も起動に乗り始めて、いつでもこの世を去る事が出来るって覚悟していた矢先だった、おれの目の前にあゆみが現れた」
あゆみは俺との出会いを思い出していた。
「あの時俺は、あゆみの気持ちも、自分の未来がない現状も全く考えていなかった、ただあゆみと一緒にいたいとそれしか考えられなかったんだ」
俺は話を続けた。
「でもあゆみとの出会いは俺の運命を大きく変える事になった、あゆみにしてみれば過酷な出来事の連続で、なんで俺と出会っちゃったんだろうって思ったよな」
黙って話を聞いていたあゆみが口を開いた。
「凌との出会いは奇跡だと思っています、ときめく男性に巡り会えなくて、私はこのまま年老いていくんだろうって諦めていました、だからあの日の凌との出会いは神様からの贈り物って思いました」
「あゆみ、大袈裟だよ」
俺は照れ臭くなり頭をかいた。
「大袈裟じゃないですよ、それに確かに過酷な出来事の連続でしたけど、何回も奇跡が起きて信じられませんでした、凌は私に沢山の初めてをくれました、凌と一緒にいる事、同じ時間を生きていく事が私の夢です、だから凌も自分の夢を追い続けて欲しいんです」
「あゆみ」
「確かに凌との子供はいらないって言ったら嘘になりますが、でもお互いに無理をしない状態で自然に授かればって思っています」
「実はもう店はある人物に任せたんだ」
「えっ?そうなんですか」
「そろそろ奴が来るから帰ろう」
「奴って誰ですか?」
あゆみは急な出来事に戸惑っていた。
俺とあゆみはマンションへ向かった。
「今日の夕飯は何?」
「唐揚げとサラダです」
「やったあ」
そこへ思った通り、ある人物がインターホンを鳴らした。
「はい」
「社長、ヒカルです」
「どうぞ」
「社長、聞いて下さいよ」
ヒカルは源氏名を漢字から片仮名に変えた。
「俺はもう社長じゃない」
「あっ、えっと、麻生さん」
「どうしたんだ」
ヒカルはグチをこぼし始めた。
「俺って魅力ないんですか」
「そんな事ないよ、No.2だったんだからな」
「麻生さんの常連さん、皆優しいんですけど、俺には魅力感じないって言うんです」
ヒカルは項垂れた。
「一生懸命麻生さんの真似して頑張ってるのに、全然響かないって言われちゃって、ショックですよ」
その時、ずっと黙っていたあゆみが口を開いた。
「ヒカルくん、凌の真似するんじゃなくて、ヒカルくんのいいところいっぱいあるから、そこを押してみたらどうかしら」
「そうだよ、お前の魅力は俺の真似じゃなく他にあるんだからな」
「そうか、あゆみさんありがとうございます、唐揚げ頂きます、うまい、麻生さんは幸せですね」
「そうだろ、今日から毎日あゆみを抱くんだから、早く仕事行け」
「凌、恥ずかしい事言わないでください」
「もう、いいなあ、俺は邪魔みたいなんで退散します」
ヒカルは仕事に向かった。