11月1日発売ラヴ KISS MY初書籍化

「ただいま」

 

俺はあゆみに酷い事をした張本人だ。

あゆみは俺をどう思ってくれているんだ。

もう、誰とも結婚はしないと言っていた。

そうだよな、また、俺の中であゆみの記憶が消えたらと思うと、俺は恐怖しかなかった。

 

 

「お帰りなさい、食事の支度しますね」

 

「あゆみ、ごめん」

 

「私、ここにいない方がいいですよね」

 

あゆみは俺と顔を合わそうとせず、背中を向けていた。

 

「あゆみ、俺は・・・」

 

そこまで言いかけて、あゆみの肩が小刻みに震えているのに気づいた。

 

「あゆみ」

 

そして堪らずにあゆみを抱きしめた。

 

「もう、手放したりしないと約束するから、俺の側にいてくれ」

 

あゆみは泣いていた。

 

「凌、ごめんなさい、私、嘘を・・・」

 

「もういいよ、全て俺の責任だ」

 

その日、お互いを強く求めあった。

あゆみが欲しくて堪らなかった。

俺はこの時初めて神に願った。

 

俺の記憶からあゆみを消さないでくれと・・・

 

俺とあゆみは結婚した。

あゆみは専業主婦になり、俺を支えることになった。

あれから、俺は時々頭痛を訴えたからである。

 

俺が眠りに着くと、あゆみは次に目覚めた時、自分の記憶が無かったらといつも心配がなくなる事は無かった。

 

ある日、激しい頭痛を訴えて、それが治ると眠りに着いた。

朝、目覚めた時、俺はあゆみの顔を見て、不思議そうな表情を見せた。

 

あゆみの中で嫌な光景が脳裏を掠めた。

「お前は誰だ?」って言われたらどうしよう。

息を飲んで俺を見つめた。

 

「おはよう、あゆみ」

 

良かった、私の記憶があった。

ほっと胸を撫で下ろした。

 

あゆみは加々美社長に挨拶に行った。

 

「大変お世話になりました、この度麻生さんと結婚致しました、そのご報告に伺いました」

 

「そうか、また彼の記憶が無くならない事を祈ってるよ」

 

「ありがとうございました」

 

そう、また凌の記憶が無くなる事はあるかもしれない。

凌は記憶が無くなっても、私と再会し、私をまた愛してくれる。

彼に愛されるのは奇跡だと思っている。

だから、今回で三度目の奇跡が起きたのである。

 

彼の口からあゆみって呼ばれない日が、ずっと訪れないように祈っている。

 

凌はしばらく仕事を休む事になった。

頭痛と手の震えが頻繁に起きるようになった。

 

「あゆみ、手の震えが止まらないんだ」

 

「大丈夫ですよ、深呼吸しましょうか」

 

そう言ってあゆみが俺の手を握ると、不思議な事に手の震えは治った。

 

「手の震え、治りましたね」

 

「俺さあ、あゆみがいないと生きていけねえな」

 

俺はそう言って微笑んだ。

 

俺の唇があゆみと動くと、あゆみはほっとした。

 

ある日、俺はとんでもない事を口にした。