11月1日発売ラヴ KISS MY初書籍化

しかし、俺は諦めなかった。

 

毎日、あゆみの店に行き、薔薇を買って送った。

 

「あゆみ、俺はお前を愛してる、俺の気持ちを受け止めてくれ」

 

あゆみは薔薇を受け取ったが気持ちに応えてはくれなかった。

 

 

 

「また、明日も来る」

 

「店長、なんで麻生さんの気持ちに応えないんですか、こんなに一途に思ってくれるなんてないですよ」

 

一緒に働いている友梨ちゃんは私の気持ちを信じられないと言った。

 

指輪は外せない、でも私の記憶が無い凌にとって、指輪は私の元主人が送った物と思っている。

 

凌がくれた指輪なのに、凌は記憶がない。

 

指輪を外して、今の凌とやり直す勇気はない。

 

また、記憶がなくなったらと思うと、心が凍るほど怖い。

 

私と凌は夫婦だった、あなたは記憶がなくなり私と別れたことは覚えていない、あなたはとても優しい人、真実を知ったら、凄く苦しむと思う、だから、言えない。

 

あれから毎日、俺はあゆみの店にやって来た。

 

そして薔薇を買い、あゆみにプレゼントした。

 

初日は一本、花言葉は「一目惚れ、あなたしかいない」

 

二日目は三本 花言葉は「愛しています」

 

そして、今日は五本 花言葉は「あなたに出会えた事の心からの喜び」

 

俺の気持ちはあゆみの心を次第に溶かしていく。

 

あゆみは俺の手を取ってしまうのが怖いと感じていた。

 

「また明日来るよ」

 

私、どうしたらいいの?

 

そんな矢先、加々美社長があゆみを食事に誘った。

 

「あゆみさん、大事な話があるんだ、食事でもしながら、どうかな」

 

「わかりました」

 

それから加々美社長とあゆみは食事へ出かけた。

 

友梨ちゃんが店を見ててくれるとのことで、この日は店を友梨ちゃんに任せた。

 

そこへ俺はやってきた。

 

「あれ、あゆみは?」

 

「店長なら加々美社長と大事な話があるとかで、出かけました」

 

俺は嫌な気持ちが脳裏を掠めた。

 

俺はこの時あゆみを誰にも渡したくないと強く思った。

 

あゆみ、俺の心はお前に伝わってないのか

 

俺は次の日店を休み、あゆみの閉店時間を待った。

 

まもなく、高級車が店に横付けされた。

 

その車から出てきたのが、この間あゆみと食事をした男だとすぐにわかった。

 

「あゆみさん」

 

「加々美社長、どうされたんですか」

 

「またあゆみさんと食事したくて、付き合って欲しい」

 

俺は車から下りて、あゆみに近づいた。

 

「あゆみ、お疲れ様」

 

「凌、お店はどうしたんですか」

 

あゆみは驚いた表情で俺を見た。

 

「話があるんだ、さあ行こう」

 

俺はあゆみの手を握り、車へ連れて行った。

 

「ちょっと待ってくれ、君は誰だ、あゆみさんは僕と食事に行く約束をしている」

 

「そんなの関係ない、俺以外の男と食事なんて、許さない」

 

その男は「失礼なやつだ」そう言って、あゆみに近づいた。

 

「あゆみさん、僕と一緒に行こう」

 

俺の手からあゆみを奪う仕草を見せた。

 

俺はあゆみを渡さないように、自分の背中側へ回した。

 

そして、車に乗せ、走り去った。