11月1日発売ラヴ KISS MY初書籍化
まさか次の日みくるが俺の元を去ってしまう事など考えもつかなかった。
仕事から戻ると部屋がロックがかかっていた。
いつも俺の帰宅時間には開けておいてくれるのに、この時違和感を感じた。
部屋に入ると真っ暗になっており、みくるの姿はなかった。
電気をつけるとテーブルに上のメモが目に飛び込んで来た。
『九条誄様、大変お世話になりました、私の料理を美味しいと言って食べてくださり、妊娠の旨を伝えた時も父親になると言って励ましてくださって、とても感謝しています、会社から契約終了を言い渡された時も個人契約して頂いて、また、流産した時も心のケアまで配慮頂き感謝しても足りない位です、一番嬉しかったのはプロポーズです、こんな私に結婚しようと言って頂いて、とても嬉しかったです、誄さんに対する気持ちをずっと抑えていました、好きになっちゃいけないと自分に言い聞かせて、でも海堂さんからプロポーズされた時はっきりわかったんです、私はやっぱり誄さんが大好きです、この先誄さんと生きていけたならどんなに幸せかなって、でも私はあなたには相応しくありません、私が誄さんのお役に立てるとしたら海堂さんと結婚して、誄さんの秘密を公表しないようにして頂くことしか出来ません、誄さん、あなたに巡り会えて幸せでした、冬紀みくる』
みくる、どうして勝手に行動しちゃうんだよ。
大好きってみくるの気持ちを目の当たりにした俺は、みくるを取り戻すべく、ある決意を固めた。
海堂は結婚したいくらいみくるに対して愛情があるんだろうから、大切にしてくれてるはずだ。
俺の身の周りの決着をつけてからみくるを迎えに行くことにした。
まず親父の病院へ向かった。
「おお、どうした?」
「親父の言う通りだったよ、みくるは自分の事より俺の事を一番に考える女だ」
「ん?何かあったのか」
「海堂慎がみくるにプロポーズした、みくるはそのプロポーズを受けた」
「そうか、奴はみくるさんと結婚したいと言っておった、そうか、みくるさんは奴を選んだのか、
ん?なんでお前の事を一番に考えることになるんだ」
親父の言葉に怒りを覚えた。
「みくるが海堂を選ぶ訳ないだろう」
「しかし、みくるさんは奴のプロポーズを受けたんだろう?」
「ああ、仕方なくな」
「仕方なくとはどう言う意味だ」
親父は不思議そうな表情を見せた。
「海堂はどうやって情報を手に入れたのかわからないが、俺の出生の秘密を知っていた」
「なんだと?」
「黙ってて貰いたいなら、結婚してほしいとみくるに迫ったんだ」
「そう言う事か」
親父は大きなため息をついた。
「みくるさんはお前のために海堂と結婚する道を選んだんだな」
親父は満足な顔をしていた。
「親父、俺は親父とは違うからな」
「どう言うことだ」
「俺はみくるを取り戻す」
親父は理解出来ないような表情を見せた。
「みくるさんが結婚してくれれば、海堂はお前の秘密を公表しないんだろう」
「公表されても構わない、俺がみくると結婚する」
「う〜ん、それは困るな」
親父は考え込んでいた。
俺はこの時考えていたことがあった。
「親父、俺、社長を辞任するから」
「なんだと」
親父は怒りを露わにした。
「それと華園誄に戻る、ごめんな、役に立てない息子で・・・」
「理由を聞かせてくれ」
俺は深呼吸をして、話を始めた。
「俺が九条誄のまま社長を辞任は虫が良すぎると考えたんだ、それとみくると結婚するには俺が九条家の人間ではダメだ、みくるにプロポーズのイエスの返事を貰えない」
「どうしてみくるさんは、お前が九条家の人間だとダメなんだ」
親父はじっと俺の答えを待っていた。
「住む世界が違うから、俺が一般庶民に戻らないと結婚は出来ないと」
「そうか、恵子も同じ事を言っておったな、住む世界が違うからわしとは結婚出来ないと」
親父はお袋を思い出すかのように天を仰いでいた。
「仕事はどうするんだ」
「これから探すよ」
「本間コーポレーションに戻れるようにしておくぞ」
「いや、ちゃんと試験受けて正面から挑むよ」
親父は仕方ないと言わんばかりに諦めた表情を見せた。
「ごめんな、親父」
「わしが力を貸すことがあったら言ってくれ」
「ああ、サンキューな」
俺は病室を後にした。
そして手続きが完了し、俺は華園誄に戻った。