11月1日発売ラヴ KISS MY初書籍化

社長が帰って来たらどう切り出そう。

 

本当のことを言えば、勝手に週刊誌に売ればいいと言い出すに決まってる。

 

海堂さんを好きになったと言う?

 

無理があるなあ、いくらなんでも。

 

黙って出て行く?そうだ、海堂さんの前からも姿を消せば、だめだ、それじゃあ、社長の出生の秘密を公表されちゃう。

 

海堂さんが私を嫌いになるようにする?

 

どうやって?

 

「ただいま」

 

なんて言うか決まらないうちに社長が帰って来てしまった。

 

「お、お帰りなさい」

 

「どうかしたか?」

 

「いえ、どうもしません」

 

「飯、まだ作ってないのか」

 

しまった、どうしようと考えていたから、夕飯の支度してない。

 

「すみません、すぐ支度します」

 

「あ、いいよ、久しぶりに外に食いに行こうぜ」

 

「でも、それじゃあ、私、お給料貰えません」

 

「俺がそうしたいんだから構わないよ」

 

社長に強引に押し切られて二人で食事に行くことになった。

 

食事の最中もなんて切り出そうと思いを巡らせていた。

 

そんな私の気持ちに、理由はわからないが、気づいた社長は「どうかした?心配事でもあるのか?」と尋ねた。

 

私は思い切って海堂さんに事を切り出した。

 

「あのう、私、海堂さんからプロポーズされて」

 

「プロポーズ?」

 

「はい」

 

「あいつは親父が俺達を引き裂こうと企んだ相手だ、みくるのこと、本気で愛しているとは思えない」

 

やっぱり、海堂さんは社長と私の仲を引き裂くためにプロポーズを・・・

 

そうだよね、私と本気で結婚したいと思う訳がないよね、私は納得した。

 

でも海堂さんと結婚しないと、社長の出生の秘密が公表されちゃう。

 

「とにかく、プロポーズ受けようと思ってます」

 

「みくる、何を言ってるんだ、プロポーズを受ける必要はない」

 

「でもこんなチャンスは、二度とないと思うんです」

 

「こんなチャンスって何を指してるんだ」

 

「結婚です」

 

「みくるは結婚したいのか」

 

社長は真剣な眼差しで私を見つめた。

 

「あ、はい」

 

私は別に結婚したい訳じゃない、でも海堂さんと結婚しないと社長が・・・

 

だから返事がしどろもどろになった。

 

「それなら、俺と結婚しよう」

 

「それは出来ません」

 

「どうして?」

 

「どうしてって、あのう・・・」

 

私は言葉が続かなかった。

 

「もしかして、何か言われたのか?」

 

「えっ?」

 

咄嗟のことに戸惑いを隠すことが出来なかった。

 

「やっぱりそうか、何を言われたんだ」

 

「ち、違います」

 

みくるは嘘を言ってるのがバレバレだった。

 

一生懸命取り繕うが、全てが無駄に終わった。

 

みくるは嘘がつけない、すぐしどろもどろになってしまうからだ。

 

「みくる、何を言われたんだ、俺に話してくれ」

 

「言えません、絶対に社長は、そうしたければさせとけばいいって言うに決まってます」

 

大体の察しはついたと感じた。

 

多分俺の事で黙っている代わりに結婚を迫ったんだろうと思った。

 

俺の事で黙っててほしい事など何も無いが、みくるが俺のためにって考えるくらいのことだよな。

 

出生の秘密か?

 

奴は何らの方法で俺の出生の秘密を掴んだ。

 

週刊誌にバラすとかなんとか、みくるに言ったんだろう。

 

平野が必死に俺に内密にと言ってるのを、みくるは知っている。

 

そう言う事か?

 

確かめてみるか。

 

「みくる、いいじゃないか、言わせておけば」

 

「そんな事ダメです、社長の出生の秘密は内密にって、いつも平野さんが言ってるじゃ無いですか」

 

「出生の秘密か」

 

みくるは俺の言葉に思わず口を手で抑えた。

 

「奴の交換条件は俺の出生の秘密なんだな?」

 

みくるはバレちゃったと言わんばかりの表情を見せた。

 

「よし、こっちで公表しちゃおう」

 

「いけません、そんな事」

 

みくるは怖い顔をして俺に食ってかかった。

 

「どうしてだよ、何の問題もないよ」

 

「よくわかりませんが、上流階級と一般庶民では考え方が違うんですよ、平野さんがあんなに内密にって言ってたんですから」

 

「そうかなあ、じゃあしらを切り通すか?」

 

「いいえ、私が海堂さんと結婚すれば、黙っててくれるんですから」

 

「何を言ってるんだ、みくるは俺だけのものだ、絶対に誰にも渡さない」

 

俺はみくるを引き寄せ抱きしめた。

 

「ダメです、私は社長には相応しくありませんから」

 

みくるはすぐに俺の腕からすり抜けて行く。

 

「俺がなんとかするから、みくるは勝手に行動するなよ、いいな」

 

この時みくるは俺の元を去る決心をしていたなど予想も出来なかった。

 

いつも自分のことよりも、俺の事を気にかけてくれるみくる。

 

俺のお袋もそうだった。

 

「誄、ごめんね、九条さんはとても素敵な人よ、

だから迷惑かけちゃダメなの」

 

お袋はいつも言っていた。

 

大好きだから迷惑かけられないと・・・

 

そうじゃねえだろ、大好きなら頼って欲しい。

 

しかし、みくるの気持ちははっきりわからない。