11月1日発売ラヴ KISS MY初書籍化

ある日九条権蔵の元に一人の男がやって来た。

 

海堂慎だ。

 

「会長、ご相談があります」

 

「なんだ?」

 

「みくるさんの事です」

 

海堂は真剣な表情で権蔵に言った。

 

「あの件は白紙に戻してくれ、誄にバレた」

 

そう言って苦笑いを浮かべた。

 

「そうでしたか、あの、みくるさんは御子息と結婚するのですか?」

 

「いや、まだだろう、みくるさんは九条リゾートホテルと契約して誄の元で働いていると聞いているが・・・」

 

海堂は少し考えている様子だった。

 

「どうかしたか?」

 

権蔵は海堂の様子に検討がつかなかった。

 

「みくるさんと結婚したいんですがよろしいでしょうか」

 

権蔵は驚きの表情を見せた。

 

「みくるさんに惚れたのか?」

 

海堂は真剣な表情で「はい」と返事をした。

 

「そうか、恋愛は自由だ、みくるさんが君を選ぶと言うのであれば問題はない」

 

「ありがとうございます」

 

海堂は口角を上げてニヤリと微笑んだ。

 

そして病室を後にした。

 

権蔵はやれやれと言った表情で去っていく海堂の後ろす姿を見送った。

 

「誄、あの男は何を考えているか注意が必要な男だぞ、みくるさんはそんなに魅力的な女性なのか」

 

権蔵はポツリと呟いた。

それから数日後私の元に海堂さんが訪ねて来た。

 

「お久しぶりです」

 

「海堂さん、社長は仕事で留守にしていますが」

 

「みくるさんに話があって来たので、お時間ありますか?」

 

私は何の話なのか検討もつかなかった。

 

「九条誄の出生の秘密の情報を入手しました」

 

私は一瞬顔が青ざめた。

 

社長の出生の事は内密にと平野さんから釘を刺されていたのに、海堂さんは誰から聞いたのだろうと不思議だった。

 

「みくるさんはご存じだったみたいですね」

 

「知りません」

 

私は表情を読み取られまいと俯いた。

 

「みくるさんは嘘がつけない人だ、まっ、そこに惚れたんですけど」

 

「えっ?」

 

私は驚きを隠せなかった。

 

「九条誄の出生の秘密は事実って事ですね」

 

「違います」

 

海堂さんは声高らかに笑った。

 

「事実だって顔に書いてありますよ」

 

私は思わず自分の顔に触れた。

 

「みくるさんは本当に可愛い人だ」

 

「からかわないで下さい」

 

「からかってなどいないつもりですが・・・」

 

「あのう、私は何も知りません、そのお話でしたらお引き取り願えますか?」

 

海堂さんはニヤリと口角を上げて微笑んだ。

 

「そんな邪険にしないで下さい、僕が事実を公表したら、九条誄はどうなりますかね」

 

海堂さんの言葉に背筋が凍る感じを覚えた。

 

海堂さんはある条件を突きつけて来た。

 

「みくるさん、僕と結婚してください」

 

「えっ?」

 

「どうせ九条誄とは結婚しないんでしょう、それなら僕との結婚を選べば、彼を守ることが出来るそれが彼への愛情ではないですか」

 

「海堂さんも社長さんで、私とは身分の差があり過ぎます」

 

「僕は生まれも育ちも上流階級ではない、会社も九条リゾートホテルとは桁違いだ、みくるさんが僕をサポートしてくれたら、会社も今以上に大きくして見せる」

 

「私にはそんな力はありません」

 

「必ず君を幸せにして見せます、僕との結婚に承諾頂けないなら、九条誄の出生の秘密を週刊誌に売り込みます」

 

私は何も言えなかった。

 

社長のために私が我慢すれば、社長のこれからの人生に役立てるかもしれない。

 

「わかりました」

 

「僕から九条誄に話しましょうか?」

 

「いいえ、私が話します」

 

「ご連絡お待ちしております」

 

「あのう、約束は守って頂けるんでしょうね」

 

「約束は守ります」

 

でもどうして私?

 

海堂さんの考えがわからなかった。

 

「あのう、どうして私なんですか?」

 

「みくるさんを好きになったと先ほど申し上げましたが」

 

「こんなに短い時間で、好きになって貰えるほど私に魅力があるとは思えません」

 

「みくるさんはとても魅力的ですよ、自分の良さに気づいていないだけです」

 

私は全く納得いかなかった。