11月1日発売ラヴ KISS MY初書籍化
そこへ平野が社用車で現れた。
「誄様、どう言うおつもりですか」
「平野!どうしてここがわかったんだ」
「こんな事だろうと思い、誄様の後をつけさせて頂きました」
俺はしまったと言う表情で俯いていた。
「誄様、車にお乗りください、マンションに戻り着替えて会社に向かいます」
「わかった」
平野はみくるに会釈をして車に乗り込んだ。
「みくる、後で連絡する、ごめんな」
「とんでもありません、ご心配をおかけしてすみませんでした」
みくるは丁寧に頭を下げた。
俺は仕方なく平野に従い、車へ向かった。
俺は車の中で黙っていた。
平野も珍しく何も言わなかった。
俺は昼休みにみくるに電話をかけた。
『みくる、大丈夫か、今朝は悪かったな』
『大丈夫です、それより一晩中通路で寝ていたのですか』
『ああ、みくるの様子が気になって矢も盾もたまらずみくるのアパートに向かって歩いていた、でもアパートに着いた時相当遅い時間だったから返って迷惑かと思って朝になったらインターホン鳴らそうと思って、帰るのも面倒だったからその場に寝ちゃったよ』
『風邪引いたらどうするつもりだったんですか、私のために無理しないでください』
『俺は無理はしてないよ』
『お仕事中ですよね、もう切ります』
電話は切れた。
泣いてた理由聞きたくて電話したけど聞けなかった。
次の日九条家の執事である平野さんが私のアパートにやってきた。
「突然申し訳ありません、この度初めて誄様のお見合いのお相手より、是非話を進めて欲しいと嬉しいお返事を頂きました、ですから九条家のためにもう誄様とはお会いにならないで頂きたいのです」
私はしばらく言葉を発する事が出来ずにいた。
「みくるさんには新たなお仕事をご紹介致します雇い主のお方と会ってください、そして二度と誄様には近づかないと約束してください」
「わかりました」
私はやっとの思いで返事をした。
誄さんを忘れなくちゃ、私には相応しく無いんだから・・・
後日私は新しい雇い主と会うことになった。
「はじめまして、海堂慎と申します、IT会社を経営しています、四十五歳独身です」
「冬紀みくると申します」
「九条家執事平野さんから事情は伺っております妊婦さんとのことですが、シングルマザーで間違いありませんか」
「あ、はい」
「じゃあ、僕にもチャンスはあるかな」
私は目をパチクリして戸惑った。
「あ、あのう、お仕事の内容をお聞かせ願えますか」
「あ、そうだったね、病院に入院中の僕の母の話相手になってほしいんだ」
「お母様の話相手ですか」
これなら妊婦の私にも出来そうだと思わず頬が綻んだ。
「母は認知症を患っていて、残念ながら僕を息子と認識出来なくて、全く心を開いてくれなくて困っているんだ」
「そうなんですか、でも私もお役に立てるかどうか自信ないです」
海堂さんはニッコリ微笑んで私を見つめた。
「大丈夫だと思うよ、みくるさんは物腰が柔らかいし、なんか話してみたいって思う感じだから」
「ありがとうございます、精一杯頑張ります」
海堂さんは真顔になり、私に尋ねた。
「プライベートな事聞いていいかな」
「はい」
「九条誄とはどう言う関係?」
私はちょっと戸惑ったが、真剣な海堂さんの言葉に真実を打ち明けた。
「身の回りのお世話をすると言うお仕事をさせて頂いて、誄、いえ社長のお宅に住み込みで雇い入れて頂いていました」
「それで?」
「それで、妊娠がわかって平野さんが妊婦は雇い入れは出来ないと反対されたんですが、社長がそれなら個人契約しようと言って下さって、私の食事をすごく褒めて頂いて」
「お腹の子供は九条誄の子?」
「違います」
「そうか、個人契約しようと思う位みくるさんを手放したくなかったんだね、九条誄は」
「あ、あのう、私の手料理をすごく気に入って下さったんです」
「それだけ?」
海堂さんは私の顔を覗き込んだ。