11月1日発売ラヴ KISS MY初書籍化

しかし常連客の名前をまったく思い出せない。

 

俺は常連客と店外デートを増やした。

 

その頃俺は自分の気持ちがマックスにならない為に、あゆみを抱きしめたりキスしたりしなくなった。

 

あゆみは俺のあゆみへの気持ちが冷めたと誤解した。

 

「凌、好きな人が出来たなら言ってくださいね」

 

「好きな人はあゆみだよ」

 

「嘘!」

 

「嘘じゃない」

 

「だって、全然抱きしめたり、キスもしてくれなくなったから」

 

そう言ってあゆみは泣き出した。

 

俺は自分の気持ちだけで、行動した事を反省した。

 

「ごめん、あゆみ、こっちへおいで」

 

 

あゆみは泣きながら、俺に近づいて来た。

 

「他に好きな人が出来たりしてないよ、あゆみを抱きしめたり、キスしたりすると、俺の気持ちが止められなくなるから」

 

あゆみは俺をまっすぐに見つめた。

 

そんなに見つめられると、我慢出来なくなる。

 

俺はあゆみにチュッとキスをした。

 

あゆみとの生活は順調に進んでいた。

 

しかし、また記憶がなくなる事はないとは言い切れないと、診断を受けていた。

 

そんな不安を抱えながらも、あゆみとの生活は幸せだった。

 

ところが、ある日、朝起きた時に隣で寝ているあゆみを認識出来なかった。

 

一瞬だが、あゆみとわからなかった。

 

目を閉じて深呼吸をして、また目を開けてあゆみを見た。

 

あゆみは俺の行動に不安を感じたのか、俺の名前を呼んだ。

 

「凌、凌、大丈夫」

 

 

「あゆみ」

 

記憶が戻ってきた。

 

俺はその時、迷路を彷徨っていた感じを味わっていた。

 

いくつか道が分かれて、その中の一つの道にあゆみがいた。

 

あゆみは俺の名前を呼んだ。

 

はじめは誰か分からず、背を向けようとした瞬間、「凌、あゆみよ、こっちへ来て」

とあゆみが手を差し伸べた。

 

俺はその手を取った、その時あゆみと認識出来た。

 

そしてあゆみとキスをした。

 

俺はこのままあゆみを分からなくなったら、あゆみを忘れたらと思うと、不安と恐怖で押し潰されそうな気持ちに、戸惑いを隠せなかった。

 

「凌」

 

あゆみは不安な表情を浮かべていた。

 

「ごめん、大丈夫だよ、何でもないから」

 

それから俺は病院へ行った。

 

「一瞬あゆみを分からなくなりました」

 

「どのくらいの時間でしたか」

 

「ほんの一瞬です」

 

「そうですか、様子をみましょう、お薬を処方しますので服用してください」

 

俺は二度もあゆみに君を知らないと言ってしまう状態に恐れを抱き、記憶があるうちにと別れを考えていた。

 

俺は尋常じゃない頭痛に悩まされていた。

 

手の震えも日に日に酷くなっていた。

 

あゆみには黙っていたが、ある日、俺は手の震えをあゆみに知られてしまった。

 

 

「凌、どうしたの?手が震えているの?」

 

「ごめん、黙ってたんだけど、しばらく前からなんだ」

 

あゆみは震える俺の手を握りしめた。

 

すると気持ちがすーっと楽になり、手の震えが止まった。

 

「震え止まりましたね、良かった」

 

どう言う事なんだ、あんなに苦しんだ時間は、あゆみに手を握って貰っただけで、解決するなんて・・・

 

俺は手の震えが止まり、睡魔に襲われた。

 

しばらく眠れない日々が続いていたからだ。

 

俺がうとうととしている間、あゆみはずっと手を握ってくれていた。

 

不思議だ、安心して、気持ちが楽になる。

 

俺はあゆみが側にいないと、生きていけないのか。