姐さん、会長が熱出してうなされています

結城は力也を寝かせた。

 

テツにひとみのこと、力斗のことを確認した。

 

「テツ、どう言う状況か、お前いつも力斗坊ちゃんを送っているんだから聞いているだろう、会長と姐さん、喧嘩でもしたのか」

 

「離婚するそうです」

 

「はあ?」

 

「この間、拉致された時、姐さんの信じられない行動で、なんとか危機を脱しましたけど、会長の男のプライドが自分を許せなかったみたいです」

 

「それで?」

 

「これ以上、自分の側に置いて置けないと、離婚することになったようです」

 

「今、姐さんはどこにいるんだ」

 

「山城さんのところだそうです」

 

結城は力也の気持ちを信じられないと呆れてため息をついた。

 

「姐さんは離婚を承諾したのか」

 

「サイン済みみたいです」

 

結城はひとみに力也の看病をお願いしようと、山城のマンションに向かった。

 

インターホンを鳴らすと、ひとみが応対した。

 

「どちら様でしょうか」

 

「ご無沙汰しております、我妻組結城です」

 

「結城さん、もしかして力也さんの身に何か起こったのですか」

 

結城は勘が鋭いひとみに驚いた。

 

「実は会長が熱を出しまして、姐さんの名前を譫言のように言っています」

 

「熱?何度あるのですか」

 

「測ってないので、わかりませんが、相当熱いです、寒いって震えています」

 

「すぐ、伺います」

 

ひとみに感心した結城

ひとみは山城にLINEを入れた。

 

山城はわかったとだけ返した。

 

力斗はテツが迎えに行ってくれるとのことで、すぐにひとみは結城の車で、

 

力也のマンションへ向かった。

 

結城が部屋に入る前にひとみに伝えた。

 

「姐さん、部屋に入ったら驚かないでください、散らかってるなんてもんじゃありません」

 

「予想はついています、逆に綺麗に片付いていたら、ちょっとショックかも……」

 

「えっ」

 

「力也さんは掃除や洗濯、片付けはしない人ですから、どなたかがきて、私の代わりに部屋を綺麗にしていると言うことでしょう」

 

結城はなんて鋭いんだと驚いた。

 

部屋に入ると、予想以上の汚れ方にひとみは愕然とした。

 

まず、寝室に向かうと、テツが力也に寄り添ってくれていた。

 

「姐さん」

 

「私はもう姐さんではないです」

 

すると結城が口を挟んだ。

 

「いえ、まだ離婚届は提出していないので、姐さんですよ」

 

ひとみの顔がパッと輝いた。

 

「そうですか」

 

ひとみはほっと安堵した。

 

力也のおでこに手を当てると、確かに熱かった。

 

リビングから体温計を持ってきて、熱を測る。

 

氷まくらに氷を入れて、力也の頭の下に、おでこに冷たい水で絞ったタオルを乗せ

 

て布団を一枚多くかけていた。

 

ひとみ、看病してくれたんだな

冷蔵庫を開けると、食材がそのまま残っていたので、力也にはお粥を作り、

 

山城と力斗にはハンバーグを作った。

 

結城はひとみのテキパキと動く姿に、感心した。

 

「テツさん、力斗を迎えに行った時、これを山城のマンションに持って行ってくれますか」

 

「承知しやした」

 

「山城にはLINEいれておきますので、帰ってくるまで力斗お願いできますか」

 

「へい」

 

結城はひとみにまかして、マンションを後にした。

 

力也は熱にうなされた表情から開放された。

 

熱が下がってきたのか、よく眠っている。

 

ひとみは力也の側で、手を握って、ウトウトしてしまった。

 

力也が目を覚ますと、ひとみが自分の手を握って眠っている。

 

(ひとみ、看病してくれたんだな)

 

(俺はお前がいないとダメだ)

 

「ひとみ、ひとみ」

 

力也は声をかけた。

 

ひとみは目を覚ました。

 

「力也さん、熱下がりましたか」

 

ひとみは力也のおでこに手を当てて確かめた。

 

「よかった、身体、少し、楽になりましたか」

 

「ああ、ひとみのおかげだ」

ひとみ愛してる

「まだ、離婚届出してないんですね」

 

「あ、ああ」

 

「じゃあ、私はまだ力也さんの妻ですね」

 

「そうだな」

 

ひとみは力也のおでこに自分のおでこをくっつけた。

 

「ひとみ」

 

「心臓ドキドキ言ってます」

 

ひとみは力也の手を自分の胸に当てた。

 

「ねっ、ドキドキ言ってるでしょ」

 

ひとみは力也の唇にキスを落とした。

 

「夫婦だからキスしてもいいですよね」

 

「山城はお前を求めてこないのか」

 

「キスを求められましたが、私が顔を背けてから、ただの同居人です、

私、酷い女ですよね」

 

「そんなことねえよ、俺は嬉しい」

 

「山城さんにプロポーズされました」

 

「えっ」

 

力也は驚きの表情を見せた。

 

「離婚届が受理されて、半年経ったら返事をすることになってます」

 

「それなら今、断れ、離婚届は出さねえ」

 

「本当ですか」

 

「俺はお前がいないと生きていけねえ」

 

力也はひとみの唇を塞いだ。

 

舌を入れて、かき回した。

 

「ひとみ、愛してる」