読売新聞の鉄道本は面白い(2)中部社会部『鉄ものがたり 読むリニア・鉄道館』読売新聞中部支社 | 鉄道きさらんど

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最近は某全国紙で名古屋でJR東海の元番記者をしていた新聞記者のツイートがまとめで注目されたりもしているが、筆者からいわせれば全国紙でJR東海絡みの奥が深くて面白い記事をかいているのは読売新聞だろう。前エントリで紹介した大阪本社編『最速への挑戦 新幹線N700系開発』(東方出版)に続き、今回は中部支社社会部の『鉄ものがたり 読むリニア・鉄道館』を紹介しよう。

これは、リニア・鉄道館開館を記念して一昨年三月に出版されJR東海キオスクなどで売られた本だが、相談役に就いてからも東海での車両保存活動に関与した須田前会長(前身・佐久間レールパークの創立者でもある)や金子館長の巻頭インタビューは一見の価値があるのはもちろん、展示車両ひとつひとつとそれに関係する人物や世相・技術のエピソードにせまる記事は読みごたえがある。人物へのインタビューではJR東海や日車の経営陣はもちろん、石井幸孝もとJR九州社長をはじめとした他社の人物、現場の社員や国鉄OBで伝説の模型ジオラマ「摂津鉄道」をつくったモデラー坂本衛氏、食堂車コックから九州鉄道博物館長代理になった宇都宮照信氏、のぞみ命名の親阿川佐和子さんや、鉄道と関係ない一ファンの社会福祉士にまでインタビューしてる。特にてっちゃんから見れば坂本氏や宇都宮氏が取り上げられているのは通好みの編集内容に映るだろう。


そして、この本は展示車両や人物を描写して鉄道の高速化と進化の歴史を説き起こすに当たり明るいエピソードだけでなく鉄道にとって暗い出来事も正直に掲載してあるのがいい。とくに国鉄・JRが取り上げたがらない暗部も観ることで鉄道の歴史がリアルに感じられる。56-57頁では、モハ63をしょうかいするにあたり鶴見事故を取り上げ、今も犠牲者を供養している地元の住職、遺体を収容した元看護師にインタビューしていてどの鉄道趣味本にもない話が取り上げられている。「曹同洞宗の大本山・総持寺(横浜市鶴見区)の山門をくぐると、左手に観音像が建っている。(中略)像は京浜東北線桜木町駅(同市中区)の列車火災事故で犠牲になった人々を悼んで建立されたものだ。」「久永シゲさん(82)は、国鉄横浜診療所の看護師として遺体の収容にあたった(中略)事故から半世紀以上が過ぎた今も、当時の光景が忘れられないという久永さん。事故の遭った事故のあった4月24日には、国鉄OBらと総持寺を訪れ、犠牲者らの慰霊を続けている。」

モハ1の記事では、旧国研究で有名な沢柳健一氏の戦時中の逸話があり、特定秘密保護法が成立した今他人ごとに思えない話なので紹介しておこう。(50-51頁)「戦争遂行が最優先された当時は、息苦しい時代だった。戦時体制を物資や人の大量輸送で支えた鉄道。軍の秘密保護を狙った法律が強化され、車両の写真を撮ったり、番号をメモしたりするだけで、身柄を拘束されかねなかった。それでも沢柳さんらは、胸元にカメラを隠したり、袖の中の紙にひそかに番号をメモしたりして、記録を続けていた。 44年前、鉄道好きな仲間の自宅で語り合っていて、警察に踏み込まれたこともある。「メンバーに軍医や技術将校など軍人がいたので、何とか追い返せました。」身の危険を感じても、好きなものへの知識欲は抑えがたい。「改造などで車両は変化します。その歴史を知りたい一心でした。」」

はっきりいってこの内容で税込476円なのは、ミュージアムショップでも置いてある1500円もするのに当たり障りのないことしか書いていない交通新聞の公式ガイドブックよりお買得の一冊だ。