あんちゃん観劇記録と心の記憶11 | kis-my-diary 北山宏光くん応援ブログ

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ー凌が撮る、家族のドキュメンタリーー





凌:「だから帰んなって!思い出せよ!俺たちのこと!思い出すまで!ここにいろって!!




グローブとボールを持ったまま、また叫ぶ。

そして自分の部屋に足早に戻りグローブを置き、代わりにビデオカメラを手にする。



凌は口調を強めたまま早口で話し続ける。



凌:「俺、映画監督になるのが夢で。今まで小さい映画の助監とかやってたけどそれじゃあ到底食えなくて。それでタビング屋でバイトしてたんだ。でも監督の仕事とかぜんぜん回って来なくて。もう30だしきっぱりやめようかなと思ってる。」

 


母:「え?聞いてないんだけど…」


 

凌:「だから今話してるんだけど!」


 

凌:「でも最後に一本だけ撮らせてくれない?これ撮ったら終わりにするから。」

淡々と話し続ける。



カメラを手にした凌は、父の元へ歩く。

強い歩調で。

そしてカメラを父に向ける。

 


凌:「父さんが俺たちを思い出すまでのドキュメント。」



母:「ドッキュメント…??」

 


凌:「違う、ドキュメント。健忘症を患った男が家族を思い出すまでのドキュメント。だから父さんが思い出すまでは終わらない。」



カメラを向けられて家中を逃げる父。



父:「や、やめろ!」



凌:「今まで撮る側だったんだ、たまには撮られる側に回れよ!!」

また父に怒鳴りつける凌。

 


台所で追い詰められた父。

凌は一切受け付けずそのまま撮影を続けていく。



凌:「父、国夫、62歳。30歳の時に独立した小さな工務店を設立。しかし8年後会社は経営破綻。ヤミ金などにも手を染め当時経理をしていた女性と夜逃げ同然の失踪。妻と3人の子供を捨てました!!

そして失踪から24年後の2017年の6月!突然家族の前に姿を現した国夫は健忘症を患い子供たちの記憶を失っていたのです。

これからあなたが捨てた家族を紹介します。」



父を睨みつけてから…

ダイニングテーブルにいた母の元へ。

凌は母の肩を掴み、父に母の顔を見せる。

そして背後からカメラを回していく。


 

凌:「母、瑛子、55歳。国夫と出会ったのは瑛子がまだ高校生のとき実家の外装工事の作業員としてきた国夫が瑛子に一目惚れしたのがきっかけです。瑛子はとても明るく穏やかでよく泣くのが特徴、どこか抜けた性格を姉達から注意されるものの弱音は吐かず、辛い状況の中でも常に笑顔を絶やさない人でした。いちばん辛いのは母のはずなのに涙を見せない母を見て私たちが弱音を吐くわけには行きませんでした。

母からたくさんのことを学びましたが母は計算が苦手て頭が弱く勉強を教わったことは一度もありません。」

 


そして、凌は冴の元へ。

冴の肩を強く掴み、逃げ回る父の前に冴を突き出し、カメラを回す。

 

凌:「長女、冴!!34歳。冴の妊娠がきっかけで2人は結婚しました。当時高価だった8ミリを購入したのは冴の妊娠がきっかけです。冴は芯が強くとてつもない頑固頭が特徴、どこか抜けた性格の母を目の当たりにしてかしっかり者の、THE!!長女!!特に父がいなくなってからは夜働きに出た母の代わりに家事をこなし、私たちの母親代わりになってくれました。融通の利かない性格ゆえ、弟の私としては窮屈な思いもしましたが、姉が運動会のお弁当や遠足のお菓子を用意してくれたことで恥をかかずに済んだんだと思います!」



泣き出しそうな冴。 

ソファーを飛び越え、ビデオを取り続ける凌。

 


そして、准の元へ。

凌の顔を見ながら泣き出しそうな准の肩をまた強く掴み、父に突き出し、撮り続ける。



凌:「次女、准!33歳。しっかり者の姉に比べ准は非常にガラが悪く、母からしょっちゅう注意を受けている存在でした。もしかしたら父にいちばんよく似た性格なのかもしれません。しかし父がいなくなってからは家事をする姉をよく手伝い荒っぽい性格はナリを潜めました。頭の弱い家系ではありますが、いつしか勉強熱心になりクラスで1番に。不登校だった私が勉強について来れたのも准のおかげだと思います。今では大手化粧品会社で重要なポジションを任せられるようになり母に多額の仕送りをしています。母が使わない分私が拝借していることを准は知りません。

つまり私は未だに准姉に甘えているのです!!」

 

 



そして…


カメラのレンズを自分に向け、少し上から自分を撮る凌。


凌:「長男、凌。30歳。」



レンズを戻し、再び父にカメラを向ける。

まだリビング内、廊下を逃げ続ける父を追いながら撮り続ける。



凌:「国夫が望んだ、待望の男の子だそうです。

しかしながら立派な女性達に比べ私は未だにどうしようもなく、姉達から年中注意を受け、実家に母に甘えて暮らしています。

父が出て行って私は不登校になりました。いつまでたっても帰らない父に母が連絡を取ってくれると思ってしたことです。



まだ幼かった私は…父がいなくなった理由も聞かされず…


ただ。父に会いたいと…

(声を詰まらせて)

そればかりを願っていました。





その後、芹沢先生が父を発見し一度だけ会いに行ったことがあります。




初めて父としたキャッチボールが…

忘れられず…




すぐにでも…

この家を離れようと思いましたが、

それもできず…





それから父に会うことはありませんでした。

 

 


健忘症を患った父は全く覚えていないと思いますが!



あのキャッチボールが!!




父との、1番の思い出です!!!」








声を震わせながら、凌は続ける。




 

凌:「あなたには、こんな家族がいるんです。

思い出してください。



ちゃんと思い出して…

 


苦労をかけた母や…姉達に…

心から…

詫びてください!!」

 

 






ここから、暗転。

しばらく、かすかなピアノ音響と雨の音、

そして観客のすすり泣く声だけが響きます。










最後のセリフは、凌は客席に背中を向けていました。それは父の表情を撮っていたから。


カメラを向けて、床に跪きながら、声を震わせながら父に訴えかけていました。



客席によっては凌の横顔が見え、本当に涙を流していた、という声も聞きました。


わたしは冴の本当の涙は自分の目で確認しています。




あの場にいた5人の家族は、

本当に、家族だったんだと思います。






次で、最後になります。