…の、はずだったのだが。
二人がホテルから出ると、金ピカのリムジンの前で“セバスチャン”…そして蓮がいた。
「敦賀さん…!?どうしてここに!?そ、それに…その後ろの車は…?」
彼を見つけたキョーコは、ドレスが汚れないように気をつけながら蓮に寄る。
しかし、蓮は目を大きく開いて質問に答えないため、首を傾げて再び彼を呼べば、ハッと我に返ったような表情を蓮は一瞬したが、
「…!あ…ああ…えっと…後ろのは社長の車だよ。それから…俺は君のエスコート役。」
次にはとろけるような笑みを浮かべていた。
「え、ええ!?エスコート役って敦賀さんなんですか!?わ、私はてっきりクオンさんなのかなって思ってて…。」
ジュリエナが飛びっきりのと言っていた為、てっきり彼女の息子がやるのかと思っていたらしい。
『…私はそのつもりでボスに頼んだはずなのだけど…。』
ちょっと怒ったようにジュリエナは言ったが蓮を苦笑いするだけ。
『クオンさまは、仕事の都合で来られないそうです。』
そこに割り込む形で言ったのは“セバスチャン”である。
『仕事…?ああ…なるほど…それは知らなかったわ。』
納得したようにジュリエナは頷く。
『…まぁ、いいわ。キョーコは彼と知り合いなのよね?』
『あ、はい!』
『なら、いいわ。この子のこと宜しくね、“敦賀さん”?』
ジュリエナはキョーコの肩に手を置いてニコリと笑う。
『ええ、もちろん。』
蓮もニコリと笑ったが、すぐに“セバスチャン”とアイコンタクトをとると、彼が車のドアをあけた所で、蓮はキョーコに視線を移せば、
『それではお嬢さん。お手をどうぞ?』
再びとろけるような笑みで手を差し、
『は…はい。』
キョーコは頬を染めて、大きな手の上に自分の手を置く。
そのまま蓮が背中から先に車の中へと入り、キョーコは彼の手を借りながら恐る恐る乗れば、
「よう。」
この金ピカなリムジンよりも金ピカな衣装を纏ったLME事務所の社長がいて、彼はバーのカウンターの席に座っている。
「しゃ、社長…!?お、おはようございますっ。」
頭をぶつけないように気をつけながらキョーコは一礼すると、
「いや~、最上くん!窓から見てたが、君だとまったくわからなかったぞ!」
あははと笑い、君は大粒のダイヤモンドの原石だったんだな、とローリィは言う。
「あ、ありがとうございます…?」
だが、キョーコ自身はよく分かっていないらしく、首を傾げた。
「じゃあ、好きなとこに座ってくれ。」
ローリィにそう言われて、キョーコはキョロキョロするが、どこに座ったら良いのか分からないでいたら、
「最上さん、ここに座って?」
蓮に手を握られたままだった彼女は手を引かれ、
「あ…ありがとうございます。」
言われるがままにそこに座ったら隣に蓮が座り、ジュリエナも車の中へと入ってくると、彼女はカウンターのほうに座る。
必然的にキョーコの目の前にはローリィとジュリエナがいる形になり、
「つ、敦賀さん?」
「なに?」
「あ、あの…その…手を…。」
未だに手を握られている為、キョーコは恥ずかしくなったが、
「ああ…嫌かな?」
「い、嫌じゃないですけど…でも…。」
「ならいいよね?」
にっこりと笑う蓮。
「は…はい…。」
思わずキョーコは頷いていた。と言うよりも頷く以外の選択を与えない笑顔だった。
蓮は彼女の回答に満足したのか、さっきとは違う笑顔になる。
そんな二人は端から見れば、恋人同士なわけで…。
『ねぇ、あなた達…実は付き合ってない?』
ジュリエナが聞いてしまうのも仕方ないことだろう。
「…ち、違います!」
しかし、すぐにキョーコが否定した。
「敦賀さんにとって私は妹みたいなもので…!」
「…妹なんて一度も思ったことないよ?」
「え…ええ!?そうなんですか!?じゃ、じゃあ私は敦賀さんにとって何なんですか!?」
キョーコは蓮を兄のように慕っているつもりだった為、相手もそうだろうと思っていたら否定された為、軽くショックを受ける。
「…何だと思う?」
またにっこりと蓮は笑う。
「と、友達ですか…?」
「…君は男友達と手なんか繋ぐのかな?」
「つ…繋がないと思います…。」
「…他には?」
「か、家族とか…?」
「…少なくとも、君を姉とも母とも思ったことないよ、俺は。」
「じゃ、じゃあ…。」
そこでキョーコは固まった。他に思いつくものがない。
(そ…そんなわけ…。)
否定はしたが、途端にあることを思い出す。それはマリアとの勝負で使った乙女ゲーム。
あのゲームをプレイして、もしかして自分は蓮に口説かれているのではないのかと思ったのが、その事をすっかり忘れていた。
(ま…まさか…。)
信じられない気持ちで蓮を見れば、彼はまたあのとろけそうな笑みで自分を見つめ、握っていた己の手に口づける。
「っ…!?」
真っ赤になるキョーコ。蓮のその行動で否定することはできなくなってしまった。
「好きだよ、最上さん。」
耳で告白される。甘い声で。
「…っ。わ、私…。」
なんて言えばいいのか分からない。ただ分かるのは嫌ではないこと。
「大丈夫、ゆっくりでいいから。」
「え…?」
「だから…俺のことを好きになって…?」
そう言って彼は彼女の頬にキスをしたのだった…。
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おまけ
ローリィとジュリエナ(お前ら(貴方たち)絶対俺(私)のこと忘れてる(でしょ)だろ…。)