「旦那様、お二人様がお見えになりました。」
執事姿で現れた“セバスチャン”が主に伝え、
「そうか。」
ニヤっと笑って、ローリィはソファーから立ち上がる。
「「お久しぶりです、社長。」」
部屋に入ってきたのは、蓮とキョーコだった。
「まあ、そこに座れや。」
彼がソファーを勧めたため、二人はソファーに座り、ローリィも再びソファーに腰を下ろす。
「おめでとう。好評みたいだな?映画。」
「「ありがとうございます。」」
蓮たちは軽く頭を下げ、
「それより用と言うのは…。」
蓮が本題を出すと、
「蓮、お前にハリウッドからオファーが来た。」
「「…!?」」
ローリィがそう言ったため、二人は目を見開くとキョーコは嬉しそうな顔をして、蓮をみたが、あんまり嬉しそうな顔を彼はしていなかった。
「…あんまり嬉しそうじゃないな。」
「…!いえ、そんなことは…っ。」
「まあ、そりゃあそうだろう。ようやく夢が叶うんだ、当たり前だろうな…だが、日本にきたばっかりのお前と今のお前は最優先するものが違う。そうだろう?」
ローリィの問いに蓮は黙り込み、キョーコは戸惑ったように二人を見ていたら、蓮に手を握られる。
「クオン…?」
「そう…ですね…確かに違います。今の俺にとって一番大切なのは…彼女です。」
「…!」
彼の発言にキョーコは頬を染めて俯いたが、
「だから…彼女と離れるのが正直、嫌です。」
そんな発言を彼がするので、彼女は顔をあげて眉間にシワを寄せた。
「…それは、どういう意味?」
「キョーコ…?」
「私のことを信用してないとか、そう言うことなの?離れたら、私の気持ちが離れるとでも思って…!」
「ち、違う…!そうじゃない!ただ…ただ君と離れるだけで、俺は息が出来なくなるみたいに苦しんだ!ずっと君にそばに居てほしいんだ…!」
「な!?」
彼の恥ずかしい告白にキョーコは一瞬にして顔が真っ赤になり、
「お前ら、いちゃつくなら、他のところでやれ。」
ローリィが呆れたような顔でツッコム。
「す、すみません…。」
流石の蓮の恥ずかしかったらしく、耳を赤く染め、キョーコは頭から煙が出る始末だ。
「でな?話は戻るが、蓮にきたオファーは連続ドラマだ。」
「れ、連続…!?」
「ああ、しかも黒幕な?」
「…!!」
黒幕と言うことは十分、やりどころはあるわけであり、
「でも、それじゃあ…。」
「しばらく日本を離れることになるな。」
ぎゅっと蓮はキョーコの手を彼女が痛くならない程度に強く握る。
「まあ、お前が渋ると分かってた。だから最上くん」
「は、はい…?」
「君、このドラマに出たまえ。」
「…え?」
今、社長はなんと言ったのだろう。ドラマに出ろと言った。
「え…?ええ…?ええ~~!?」
「ある意味、重要な役だが、ほとんど脇役だ。それでもやりがいのある仕事だと俺は思ってる。」
「あ、あの…!でも私なんて…!」
オドオドしまくるキョーコにローリィは、
「蓮の隣に立ちたくないのか?」
「…!」
「これは最初の一歩だ。悪いが、蓮の隣に立つには経験も知名度も低い。それは君も分かっているはずだ。」
「社長…!彼女は一生懸命に頑張って…。」
「それは分かってる。だが、お前に追いつくには死に物狂いで…いや、それ以上にやらないと何時までも立っても追いつけない。いくら彼女に才能があってもだ。」
「それは…。」
蓮は何も言えなくなった。今、彼が築いてきた経験や知名度は死に物狂いで頑張って手に入れたものだから…。
「…私…分かってたつもりでした…。」
ポタっとキョーコのスカートに雫が落ちる。
「頑張らなければ、いつか、堂々とクオンの隣に立てるって…でも、本当は不安だったんです…いつかっていつだろうって…っ。」
キョーコは泣いていた。
「キョーコ…ごめん…キョーコの気持ちに気づかなかった…ごめん…。」
彼女を引き寄せ、蓮は謝るが、キョーコは頭を振る。
「クオンは悪くないの…だから、自分を責めたりしないで…?」
「キョーコ…ありがとう、愛してる。」
「わ…私も愛してる…。」
二人が見つめ合って、唇を重ねようとした時だった。
「おい、そこのバカっプル。俺を忘れるな。」
ローリィは頬を引きつりながら、止めさせた。
一時停止する二人…。
「で、やるのか、やらないのか、どっちだ。」
さっさと決めろとイラつくLME社長。
「や、やりますっ。やらせてください!死に物狂いで頑張ります!!」
「んじゃ、決まりだ。あとのことはサワラくんに聞いてくれ。俺はナツコちゃんと遊んでくる。」
ソファーから立ち上がると『ナツコちゃん~♪』と言いながら、部屋を出て行くローリィ。
ポツンと蓮とキョーコは部屋に残されたのだった…。