ローリィの豪邸。そこの主が鼻歌を歌いながら、何かの書類を読んでいた。
「…旦那様、お楽しそうですね。」
「ん?わかるか?」
「はい。」
“セバスチャン”は頷く。
「俺が何を考えてるか、分かるか?」
「いいえ。旦那様にはいつも驚かせられます。」
「驚いているようには見えないがな?」
「執事はいつも冷静にでございます。」
「それ、矛盾してないか?」
「それは旦那様のせいでございます。」
「あははっ。そうだな。まあ、勘で俺が何考えてるか言ってみろや。」
「…強いて言うのなら、最上様のことでしょうか?あれ如きで旦那様が満足するとは思えません。」
彼がそう答えるとローリィはニヤリと笑い、
「当たりだ。」
バサっと読んでいた書類をデスクに投げ出し、書類が散らばる。
そこには“不死蝶プロジェクト”と書かれていた…。
「そ、それじゃあ、お、おおおおと…っ。」
クーとジュリエナが宿泊しているホテルのスイートルームに見送りのため、キョーコと蓮はそこに居り、
キョーコがクーを“お父さん”と呼ぼうとして咬みまくる。
本当は空港で見送りたいのだが、蓮のことも考えてホテルで見送りをすることにした。
蓮も息子として二人を見送りたいに違いないのだから…。
「…お前、そんなに咬みまくってどうするんだ。将来的には私をお父さんと呼ばないといけないんだぞ?」
息子の嫁になるのだから、とクーは苦笑い。
「そ、そうなんですけど、そうなんですけどっ。お、おおおおと…父さんっ。」
無理だったのか、久遠少年に切り替わってしまう。
「父さん、俺がコツコツ慣れさせるから、勘弁してあげて。」
そんな彼女に助け舟を出すのは実の息子で、
「…わかった。お父さんって呼ばれるのを待つよ。」
クーは困ったように笑いながらも頷いた。
(…やっぱり、親子なんだな…。)
キョーコは二人の雰囲気や表情などを見て、今更実感した。
顔つきのほうも今はどちらかと言うとクーのほうに傾いている。
『キョーコ。』
『あ、はい。』
ジュリエナに呼ばれて、そちらに振り返ると、
『これプレゼントよ?あの子が好きそうなの選んでみたの。』
にっこり笑って、紙袋を渡される。キョーコは嫌な予感がした。
恐る恐る袋の中を覗けば、可愛らしい色のレースの何かが…。
一瞬にして真っ赤になったキョーコはブンブン首を振り、
『お、お返ししますぅううう!!』
『あら。遠慮しなくていいのよ?』
『し、してません!!』
『じゃあ、もらってくれるでしょ?』
ニコニコ笑うジュリエナ。
『はい…いただきます…。』
キョーコは完全に負けて、結局受け取ってしまう。
『ジュリ、もうそろそろ時間だ。行こう。』
『あ、そうね。じゃあ、またね。私の可愛い子供たち。』
にこっとジュリエナは微笑むと、蓮の頬にキスし、次にキョーコの頬にキスすると手を振りながら、クーと一緒に部屋をあとにする。
「…ジュリエナさんって凄いと思う…。」
彼女にキスされたキョーコはキスされた自分の頬に触れてポカーンとした。
「母さんって無意識に異性も同性も虜にするから、昔色々あったみたいだよ。」
「…え?」
「一番、本人がビックリしたのは同性がストーカーになったことだって笑ってたっけ…。」
「ええ!?わ、笑いごとじゃないよ、それ!!」
「だよね?当時、俺まだ子供だったけど、恐いと素直に思ったよ…。」
まさに魔性の女とは彼女のことを言うのではないだろうか?
本人は完全に無意識だったとしても…。
「じゃあ、俺たちもここ出よう。いつまでもここにいるわけには行かないし。」
「あ、そっか。ここにいたらホテルの人にご迷惑がかかるもんね…。」
チェックアウトしたのなら、ここを掃除しにホテルの人が現れるはずなのでキョーコは納得し、二人も部屋を後にしたのだった…。