カフェと言っても、座れるところがあって、コーヒー販売機があるだけなのだが、カレンがそこへ戻ると、

「か…囲まれてる…。」

なんとレオンは男女に囲まれていた。

彼女の耳には質問責めの女子と芸能界に興味ないか的な誘い的な男子の声が聞こえ、それに対してレオンは無言を貫いていく。

ほっとけば、相手が身を引くことを知っているのだろう。

「…あの~!」

そんな男女たちにカレンは話しかけると、一斉に彼らは彼女を見る。

「私の夫に何かようですか?」

カレンは全く怯えたりせず、ニコニコと笑う。

「お、夫…!?結婚してたんだ…ショック…。」
「ほら、言ったでしょ?こんなイケメンが彼女いないとか有り得ないから。」
「だってさ~。」

妻がいると知れば、女子は諦めたようで、レオンから離れていくが、

「君、日本語はなせるだね!?じゃあさ、彼に通訳してくれないかな?彼、日本語分からないみたいで。」

正確には、日本語が分からないフリをしているのが正しいが、彼らは気づいてない様子。

「失礼ですが、彼は芸能界はないので諦めてください。」

カレンは日本語でそこまで言うと、

『行こう、レオン。』

英語に切り替えて、彼に話しかけると、レオンは頷き、彼らを無視してカレンとそこから立ち去る。

『日本人はしつこいな。10分近く粘ってきたぞ。』

ストレスが溜まったのだろう。レオンはブツブツ言うので、カレンは苦笑い。

『ごめんね、レオンを一人にさせたから、こんなことになっちゃった。』
『いい、気にするな。モー子さんって言うのには、会えたのか?』
『うん。それにしても、事務所にきたらパパたちがいて、びっくりした。』
『同じ飛行機に乗ってたのにな。』
『そうそう。パパたちも行くなら行くって言ってくれればいいのに。』
『…お前、俺たちが新婚旅行の途中なのを忘れたのか?』
『あ。そっか。気を使ってくれたんだ、パパたち。』

なるほどと言うカレンにレオンは呆れたように溜め息をつくと、

『で?次はどこいくんだ?』

そう聞けばカレンは、

『社長さんとマリアお姉ちゃん!』

笑顔で笑って答えた。レオンは知らない。LME事務所の社長は変わり者であること。

「お。カレンくんじゃないか!!結婚おめでとう!」
「ありがとうございます。」

社長に行けば、ローリィ、

「カレンちゃん、おめでとうですわ。」
「お姉ちゃん、おめでとう!」

マリアとその息子、ヨハネが笑顔でお祝いの言葉をくれた。

しかし、ローリィを目に入れた途端、固まっている人間が一人。

(う…噂で聞いてたが…本当だったのか…。)

固まっているのは、レオンで、ローリィの派手すぎる衣装と存在感に頭が真っ白になるくらい驚いている。

そんなレオンの気持ちがわかった、カレンは苦笑いを浮かべ、

『レオン、紹介するね?こちらがローリィ宝田さんとそのお孫さんのマリアさんと息子さんのヨハネくん。』

紹介すると、レオンはこちらの世界に戻ってきたらしく、ああ…と頷き、ローリィに握手を求められたので握手をした。

その後、ローリィがパーティーを開こうと言い出したので、

「ごめんなさい、もう時間があんまりないんです。」

カレンはニコと笑って、レオンの腕を引っ張って逃げるように社長室から出てると、そこから離れた。

『ふぅ…危なかった。』
『何が危なかったんだ。引っ張りやがって…しかも時間がないって何だ。』
『だって、あのままいたらパーティーに参加させられるもん。参加したら最後、社長さんが満足するまで付き合うことになるんだよ?』
『…マジか。』
『うん。』

レオンと話しながら、エスカレーターで下におりると、

「…パパ?」

父親の後ろ姿が見えた。けれど、普通の後ろ姿ではない。何だかドス黒いオーラを纏っているので。

「ああ…なるほど…。」

カレンにはすぐに原因がわかった。

「モー子さんぁああん!!大好きぃいいい!!」
「わ、わかったから!!ここで抱きつくのは止めなさい!!敦賀さんも何オンナ相手に嫉妬してるんですか!?」

父親の視線の先には、顔を真っ赤にしてる奏江とそんな彼女に抱きついているキョーコ。

つまり、奏江に嫉妬しているらしい。

「やだなぁ。俺のどこが嫉妬してるのかな?」

奏江の言葉にクオンはニッコリと笑うので、

「してるじゃないですか!!私もその笑顔には騙されませんよ!?」

ツッコミを入れると、クオンの笑顔が消えた。

「キョーコ。」
「…ひっ!?」

呼ばれたキョーコはクオンを見ると、血の気が引く。

「琴南さんと俺、どっちが好き?」
「モ…。」
「も?」
「クオンですぅうううううう!!ごめんなさいぃいいいいい!!」

号泣してキョーコは謝る。今のクオンは大魔王なので。

「じゃ、こっちおいで?」

機嫌が直ったクオンは腕を広げ、しくしく泣きながらキョーコは広い胸板に抱きつく。

「じゃあ、琴南さん、俺たち行くから。」
「え…ええ。」

奏江が頷くと、クオンはキョーコの腰を抱いて後ろをむき、ようやくカレンたちに気づく。

「何かな、カレン?」

カレンが何か言い出そうな顔をしてたのでクオンは尋ねると、

「…大人げない。」

呆れた表情でカレンは答えた。

「そうかな?少なくとも、隣の彼は思ってないと思うよ?」
「え…?」

言われて、カレンはレオンを見れば、顔を逸らされる。

『なんで顔を逸らすの?レオンはこんなことしないでしょ?』

しかし、レオンは黙り込んだ。

『…悪いかよ。』

最終的に彼から出た言葉はコレであり、つまり肯定したと言うことで、

『え!?いつ!?』

自覚がなかったカレンは目を丸くする。

『…言えるか。』

そもそも嫉妬の回数など数えていないし、数え切れない。

正直、あっちでは挨拶であるハグすら、カレンにはやって欲しくない。

抱きつくのは自分だけでいいと思っているのだから。

そんなレオンの気持ちなど知らないカレンだったが、嫉妬してくれたことがあると知って、嬉しそうな表情をすると彼に抱きつき、レオンは抱きついてきた彼女に微笑むと抱きしめ返す。

(…いちゃつくなら他のところでやってほしい…。)

ここは事務所だ。社員たちがこちらをジロジロ見ながら通り過ぎていくので、奏江は恥ずかしくなってきた。

しかも、カレンたちを見たクオンは何かを刺激されたらしく、キョーコに何か囁くと彼女は真っ赤になって、そして彼らまでいちゃつき始める。

(もう、勝手にして頂戴!!)

ジロジロ見られることに耐えられなくなった奏江は顔を再び真っ赤にして、その場から去った。

ちなみにキョーコが奏江がいないことに気づいたのは、数分後だったと言う…。