『じゃあな。』
『うん、またね。』

カレンは手をふるとレオンは車を出す。

車は真新しいピカピカの高級車。どうやら祖父に送られたのがコレらしい。

今までレオンはバイクに乗っていたため、カレンに合わせてバスに乗ってたり、後ろに乗せてたりしたのだが、せっかく車を贈ってもらったため、乗ることにしたようだ。

車が見えなくなるまで、カレンは手を振っていたのだが、

「カレン姉!!」

日本語で呼ばれ、後ろから抱きつかれる。

「ゆーか!」

振り向けば、ふんわりカールのボブカットの女の子…もとい唯花。

「今の彼氏!?」

興味津々に瞳を輝かせて聞いてくる少女。

「う…うん、そうだけど…。」

聞かれたカレンは恥ずかしそうに答える。

「カッコイイお兄ちゃんだね!ねぇねぇ何処が好きなの!?」
「え…あ…えっと…ぜ、全部だけど…。」
「じゃあさ、じゃあさ!!」

まだまだ聞いてきそうな唯花。

『唯花!』

するとだ。男の怒鳴り声が聞こえた。その声にカレンは聞き覚えがあり、自分に抱きついている少女は何故か涙目になるとロボットのようにカクカクしながら振り返った。

『…俺に嘘をつくとはいい度胸だな…。』
『く、クラウド…あの…その…。』

そこにいたのはクラウドで、彼は怒っていた。珍しく。

『言い訳したいならすればいいだろ?ちゃんと聞いてやるから…説教しながら、な…?』
『ひ…ひぃ!』

唯花が何をしたのかは分からないが、こうなるとクラウドは誰も手をつけられない。普段の彼があまり怒らないだけに。

『な…何したの…?ゆーか。』
『た、助けてカレン姉!!』
『た、助けてって言われても…ゆーかが悪いことしたんでしょ?』
『そーだけど!でも!!』
『唯花。俺と2人きりで話そうな?うん?』

クラウドはどこかの誰かさんのようにニッコリと笑う。

(や…やばいっ。本気で怒ってる…っ。)

ただ何処かの誰かさんとは一つ違うことがある。それはクラウドは笑顔になれば笑顔になるほどになるほど怒っている事。極度を超えると何処かの誰かさんは笑うこともできなくなるのだが、クラウドは逆で、怒りの極度を超えると笑顔しなない。声はどす黒いのに。

『ほ、ほら!ゆーか、ごめんなさいって謝っちゃったほうがいいよ!』
『や、やだ!謝らない!!』
『意地を張らないの!!』
『意地なんて張ってない!!』

キッと唯花はカレンを睨む。人はそれを意地を張っていると言うのだが…。

『唯花。』
『ひっ!』

いつの間にか近くにいたクラウドに、唯花はサっとカレンに隠れるが、

『…カレン、唯花を渡してもらえるかな?』
『う、うん!ほ、ほら!ゆーか!!』

力の差で適わず、クラウドに差し出されてしまう。

『…質問に答えてもらおうか?なんで俺に嘘をついたんだ?』

クラウドは未だにニッコリ笑ったままで、ポケットから紙を取り出すと広げて見せる。

「あ…。」

テストだった。点数は61点。まあ、良くも悪くもない点数だった。

それをみた瞬間、カレンはすべてを悟った。確か唯花は点数が良かったら、ご褒美がほしいと彼にねだっており、だからこそ、クラウドは昨日買い出しに行っている。

だが、クラウドは唯花に嘘をついたと怒っていて…つまりは唯花は良い点数はとれなかったと言うことだ。本当の点数は今クラウドが持っているプリントに書かれた点数だろう。

『…だって…。』

唯花は俯き、泣き出そうな声になったが、

『そこまでして、ご褒美が欲しかったのか?』
『…!ち、違う!!』

クラウドの言葉に顔を上げれば、

『じゃあ、どうして嘘なんてついたんだ。』
『そ、それは…だって…うわ~ん!!』

泣き出す唯花。

『ごめんなさ~い!!』

泣きじゃくりながら謝る少女に、クラウドは笑顔が消えて、溜め息をつくと、

『…ほら。手を出せ。』
『…?』

ポケットから小さな可愛らしい紙袋を出すと、唯花が出した手のひらに乗せる。

『これは…?』
『ご褒美だ。』
『え!?でも…。』

確か良い点数でなければ、ご褒美などもらえないはずだ。

『前の点数より上がったろ?お前、理科苦手なのに。』
『クラウド…。』
『ほら、開けてみろ。』
『…うん!』

人懐っこい笑顔をクラウドは見せると唯花も笑って、小さな可愛らしい紙袋を開ける。

『可愛い!』

中に入ってたのはヘアピンだった。日本では有名な桜のヘアピン。

唯花は一目でそれが気に入って、

『ありがとう、クラウド!大事にするね!』

ヘアピンを抱きしめて礼を言う。

『どうも致しまして。』

クラウドはそう言うと唯花の頭をぐしゃぐしゃにするように撫でるので、

『や、止めてよ!クラウド!!』

唯花は抵抗をするが、本気で嫌がっているわけではない。

(…私、忘れられてる…?)

それをずっと見ていたカレンだが、完全に自分の存在が忘れられている。

『じゃあ、カレン世話になったな?』
『カレン姉、バイバイ!』

カレンの気持ちなど知らない2人は仲良く手を繋いで、社家に戻っていく。

それをカレンただ見送ったのだった…。