ラブミーつなぎ。それを見たものは呪いのように誰も忘れることができないアイテム。

「ぬ、脱ぎたいー!!」

夏美は恥ずかしすぎて、脱ごうとするが、美優に止められる。もちろん彼女も恥ずかしいので、顔を真っ赤にしながらだが。

ただ今頼まれた廊下掃除中。

「終わった~!」

掃除が終わり、二人は道具を片付けて、スタンプをおしてもらった後、ラブミー部の部室に戻ろうと階段を降り出す。

「これ、いつ溜まるのかしら…。」

夏美はスタンプ帳を見ながら溜め息をつき、

「何かのオーディションを受けたほうが早いかも…。」

何かしら自分から行動したほうが良いのかもしれないと考えた。

「…オーディションか。探せばあるかな?ドラマの端役でも良いんだけど…。」
「あるんじゃない?アンタ、上手いから大丈夫よ。」
「そ、そうかな?でも、もーコさんも歌上手だよ?あれ、なんの歌?」

夏美は事務所のオーディションの時に、歌声を披露したらしい。

「ああ…あれね。父親が使わなかった曲。」
「ええ!?そうなの!?」
「ええ。許可はもらったけど。仕方ないじゃない、私は曲を作る才能はないのよ。まあ、ピアノのソロ用に直したりはしたけど…。」

夏美はどうやら、ピアノを弾きながら歌ったようだ。

「へぇ~。でもあれ、なんであんなに良い曲なのに、使わなかったの?」
「…自分らしくないって言ってたわ。女性の目線にしすぎたって。感情をこめて歌えないってグチってた。」
「歌手って大変なんだ…きゃ!」

最後の階段にさしかかった時だ。美優は足を踏み外す。

(落ちる!!)

落下するのを感じて、目を思わず閉じた。

が、衝撃だけで美優はちっとも痛くない。

「やば!!」

夏美の声が後ろからする。何がヤバいのだろう。目をあけると、

「いっ…。」

代わりに自分の身体の下に、人がいた。それも男性。

「大丈夫…?」

顔を上げると何もかも整った顔が目に入って、美優を目を見開く。

(ほ…保津川翔!!)

どうやら自分は彼にかばってもらったらしく、彼の上にいる状態。

「す、すみません!」

一瞬にして顔が熱くなったのを感じて、慌てて彼から降りた。

「け、怪我してませんか!?」
「大丈夫。軽く頭ぶつけたけど。」

起き上がって彼は、自分の頭を撫でる。

「え!?す、すみません!!」

ペコペコ美優は謝ると、

「ぷっ。」
「!?」

突然、彼に吹き出されたので美優はビックリした。

「あ…ごめんね?あまりに必死に笑うから、つい…。」

クスクスと彼は笑う。

「君…名前は?」
「え?」
「その格好って事は、ラブミー部だよね?」
「あ、はい!えっと、橋本美優です。」
「…!」
「どうかしました?」
「あ…いや…何でもないよ。橋本さんか…よろしく。俺は…。」
「保津川翔さんですよね?知らない人なんて、この日本に居ませんから。」

なんて言ったって、抱かれたい男、ナンバーワンなのだ。

「…ありがとう。じゃあ、もう階段に落ちないようにね?」
「は、はい。ありがとうございました。」

ぺこっと美優は頭を下げ、彼女に手を振ると「翔」は去っていく。

「…テレビのままなのね。保津川さんって。」

ずっと階段にいた夏美が降りてきて、美優の隣にいく。

「本当に紳士ね。普通に怒るでしょ。」

ぶつかってきたのだから、普通なら怒るとこなのに、彼は怒らなかったので。

「…聞いてる?おーい。」

手を美優の前で振るが、無反応。

「…お空…。」
「は?」
「あ…ううん。何でもない。行こう。」

美優は笑うとまた階段を降り出し、

「あ!ちょっと待ちなさい!!」

夏美は慌てて追いかけた。

「…美優…か。」

『翔』は立ち止まって、振り返ると、上を見上げれば、ライトの光が目に当たり、琥珀色の目の縁が青になる。

これは生まれつきだった。おそらく、アメリカの血やら何やらが混ざっているからだろう。

「偶然…だよな。」

同じ名前だった。

『えっとね、ミウって言うの!』

記憶の中の幼い少女と。

「橋本美優…か。」

つぶやくと彼は微笑んだ…とても優しく…