キョーコたちがいる、この国。
薔薇が名産品のためか、薔薇の国と呼ばれていた。
薔薇の国には、優しい王様と、それはそれは宝石のように美しい王妃がいる。
民は幸せに暮らしているが、後継ぎのことを誰しも心配していた。本来は二人の王子が引き継ぐはずなのだが、事故で亡くなっている。
…と、言うのは表向きであった。
王子は本当は元気に生きている。今は王の側近として。
彼の現在の名前は、レン。
本名はクオン。
そもそも、どうして事故と見せかけたのか?
理由は当時が城の中が泥沼化していたからである。
王様は娶るつもりはなかったのに、押し付けるように無理やりに娶らされた小さな国の姫が王妃とその息子に嫉妬して、暗殺を企てたからだ。
いち早く計画を突き止めた王様は、阻止するため、息子を王様は知り合いに預け、隠した。
王妃も一時、身を隠している。
証拠を引きつけ、姫を国から永久追放し、息子を迎えにいったのだが、
『俺、まだ戻るつもりないよ?勉強したいんだ。父さんの国のために。』
そう言われては、連れ戻せなかった。
やっと戻ってきたと思えば、側近にしてほしいと言ってきたので…王様は頭を抱えたくなったらしい。
そんな王子だったが、最近様子が変だった。
『キョーコ姫が近々、嫁がれるそうよ?』
『まあ、お相手は?』
『ショー王子ですって…。』
『まあ…可愛そうに…確か女性好きで有名でしたわよね?』
『お顔はいいのだけれど…ショー王子を夫にしたら大変そうで…。』
キョーコの結婚話が噂になったころ、レンは何か精神的に焦っていた様子が見られた。
ついには、王子に戻るから、彼女を正室にしたいと願ってくる。
びっくりしたものの、それを聞いて王様は状況把握し、願いを叶えてやろうと思ったが、
キョーコが家出して、行方知れずになったので、話は保留になってしまった。
それよりも、キョーコを探す旅に出ようとする息子が止めるのが大変だった。乳兄弟であるヤシロと一緒に説得したが、隙をついて探しに行きそうである。
だが、それがぴたり止んだ。何故止んだのかは、レンしか知らないことでだった…。
「あ、こんにちは。レンさん。」
「こんにちは、キョーコちゃん。」
あの薔薇の庭。あれから、二人はここで会うようになった。
「ちゃんと朝ご飯食べましたか?」
「…あ~うん…。」
「本当ですか…?」
「…ごめん…コーヒーで終わらせた…。」
「…!!レンさん!?何度言ったら分かってくれるんですか!?食事は大切なことなんですよ!?」
「ご、ごめん…。」
まるで母親のようにキョーコは怒る。
「と言うことで、夕飯は私と一緒に食べてくださいね?」
「…!うん。」
しゅんとしていたレンだが、夕飯に誘われて表情を明るくする。
(…なんか、犬みたい…。)
そんな彼にキョーコは、耳と尻尾が見えたのである…。