そのよる、

「…いつまで見てるのよ、その薔薇。」

花瓶に入っている薔薇をキョーコが見ていたら、カナエに言われた。

「…なんか似てて…。」
「…は?」
「う、ううん!!何でもないの!!お休み!!」

ごまかすように寝具を頭にかぶり、

「ちょっとキョーコ!?もう!!」

寝たふりをして、彼女が寝たのを確認したキョーコは、寝具から頭を出して、薔薇を見つめる。

「…コーン…。」

ぼそっとつぶやく。

あれは十年前のことだ。まだキョーコは母がいたが、生活のために働き詰めで、あまり相手をしてくれなかった。

寂しくって、泣いていたら、いくつか上の男の子が話しかけきて、彼をみたキョーコは、

『妖精さん…?』

思わず勘違いするくらいに綺麗な男の子だった。彼の名はクオンと言った。妖精じゃないなら、王子様なのかと聞いてみたけれど、彼は苦笑いして首を振る。

それからと言うもの、男の子はキョーコの遊び相手になってくれた。

『…帰っちゃうの?』
『うん…ごめんね。』

少年は突然、国に帰るのだと言った。

『そんな…友達になれたのに…。』

ひくひく、キョーコは泣く。

『…キョーコちゃん、手をだして?』
『…?』

言われたとおりに、キョーコは手をだすと、手の平に碧い石をおかれる。

『これ、なぁに?』
『…こうやってやってみて?』
『…?』

言われるまま、石を太陽に掲げると石は色をかえて

『色が変わった…!』
『今の魔法だよ。』
『魔法…?』
『うん、キョーコちゃんの少しでも減るように俺が石に魔法をかけたんだ。』

そう言って、優しく彼は笑った…。

あれから、十年。その石を肌身に離さずキョーコは持っている。

「…今思うと嘘だよね…王族しか使えないし…。」

がま口財布から、その石をだして、月に当てるが、色は変わらない。

「…会いたいな…。」

今まで、会えたら会いたいと思った。何回も。

それはいつも、泣きたいときだったが、今日は違う。

原因はレンだった。

似ていた。雰囲気と笑い方が。

「…また行ったら、会えるかな…。」

コーンに会いたいのか、レンに会いたいのかは、分からない。

けれど、もう一度見たかった。

彼の微笑みを…。