「…え…?」

起きてキョーコはびっくりした。

見覚えがある天井は、だるまやではない。

「ここ…ショータローの実家じゃない…。」

起き上がって、周りを見渡せば、やはり此処は旅館の離れであり、自分が寝泊まりしていた部屋だ。

「な、なんで…?何がどうなって…。」

ワケがわからなくなって俯いたら、黒髪が目に入って、慌てて鏡の前に立つ。

鏡に映っていたのは、浴衣姿のセミロングの黒髪の少女。15歳の自分がそこに立っている。

「うそ…でしょ…。」

キョーコは畳にべたんと座り込む。

「意味わかんない…。」

とりあえず、さっきまでいた時代からキョーコは六年後の世界にいる。だが、あの時と状況がちがう。今の自分はこの時代のキョーコなのだ。証拠にキョーコは15歳になってしまっている。

「しかも今日、卒業式じゃない…。」

カレンダーには、卒業式とかかれており、今日が卒業式だと分かった。自分の。

「…未来を変えたから、過去をやり直せって言いたいわけ…?」

ハッとキョーコは笑う。瞳から涙が出てくる。

「本当に変わっちゃったの…?もう本当に会えない…?。」

ポロポロと涙が流れ、畳を濡らしていく。

「なに言ってるんだろう…私が望んだことなのに…。」

そうしたのは自分なのに、何を今更言っているのだろう。

「着替えなきゃ…あと女将さんに挨拶して…。」

必死に中学時代の朝の過ごし方を思い出すが、涙は止まらない。胸もいたい。

どうしたらいいのか分からない。

「うう…。」

堪らなくなって、キョーコは布団に顔を埋め、声を押し殺しながら鳴き始めたのだった…。



「俺についてきてくれないか?」

学校に続く道にある桜が満開で、桜が降っている。

「…ごめん、私は行けない。他の子に頼んで。」

キョーコは幼なじみにそう答えて、彼を通り過ぎようとしたが、

「お前、今日変だぞ!?」

ショーに手首を掴まれて止まった。

「…何が?」
「いつも俺についてくるように歩いてくるくせに、今日は俺から離れて歩くし、呼び方だって…!」
「別にいいじゃない。ショーには関係ないでしょ?いくら幼なじみだって。」
「お前やっぱり変だ!!」
「…もういい?帰って女将さんの手伝いしたいんだけど…。」

うざいと顔に出す、キョーコ。そんな彼女にショーは戸惑った。

「早く帰ってきなさいよ。また女将さんに怒られるわよ。」

彼の手を振り払ってキョーコは歩きだし、ポカーンとしたショーなど、ほっといて帰宅したのだった。

「…これくらい、あれば足りるよね…。」

コツコツ貯めていた通帳を見ながら、キョーコは呟く。荷物もまとめていた。

キョーコはショーとは別に、東京にいくつもりである。

芝居のやりたかった。蓮の次に掛け替えのないものだから…。

「でも、オーディションを受けるのは、一年後かな…モー子さんに会いたいし…あ、マリアちゃんはどうしよう…。」

順番に会いたい人たちに、出会ったきっかけを思い出し始める。

「そういえば…あのクオンはどうしてるだろう…心配したかな…でも六年経ってるし、確認しようもないけど…うまくやってるといいな…まさか私を迎えに日本にくるとかは、ないよね…?」

人間的には同じなのは、わかっているが、あのクオンに恋心はなく、迎えにきても、自分は受け入れない。

「…一生、ラブミー部卒業出来なくていいや…。」

ポツリとキョーコはまた目から涙が出そうになって、目をこすった。

すると急に眠気が襲ってきて、そのまま眠りについたのだった…。