『…なんだ…この空気は…。』

リックは困り果てていた。

テーブルを挟んで、目の前にはクオンとキョーコが座っているが、重い空気が流れている。

『おいおい…クオン、いつもより萎れてるぞ…?』
『…大丈夫だから。』
『でもな…。』

いつもより元気が明らかにないのでリックは頭をかく。

(昨日はこんなんじゃなかったのに…昨日なにかがあったとしか思えないぞ…?)

今日はより一層、クオンの俯き加減が絶好調で、リックは頬を引きつるが、キョーコに目をむけ、

『で、お嬢ちゃん。』
『あ…はい。』
『こいつ、頼んだわ。』
『…は?』
『話はそれだけだ。じゃあ、俺はこれから仕事だから帰るな?』
『え…ええ!?ほ、本当にそれだけなんですか!?』
『ああ、そうだ。』

きっぱりハッキリ答えるリックにキョーコは絶句した。

『ちょ!?リック!!』

クオンも止めにかかるが、

『昨日教えたろ?まじない。それを彼女にやってもらえ。俺より効くと思うぞ?』
『い、いや!だから待って!』
『じゃあな、クオン。』

有無言わせず、リックは帰っていってしまった。

「…ごめん、キョーコちゃん。リックの代わりに謝るよ。」
「あ、謝らなくていいから!そりゃあ、びっくりしたけど…。」

まさか、話したいことが一言だとは思わなくて驚いたが、クオンが謝る必要はないとキョーコは思っている。

「「……。」」

そこで沈黙になってしまう二人。

「わ、私買い物に行ってくる。」

居たたまれなくて、買い出しに行こうとしたが、

「…!まって!危ないから、俺もいく!」

クオンがキョーコを心配して、付き添いすることになり、

「「……。」」

結局、沈黙に逆戻り。

(今日は何にしよう…先生もジュリエナさんも昨日から別々だけど、仕事の都合で数日は帰ってこないし…。)

品物を見ながら、キョーコは考えている。

(クオンに聞いても、何でもいいって言うに決まってるし…。)

食事に対して、欲が彼にはないので、聞いてもしょうがない。

(ハンバーグでいいかな…もう。安いし…。)

もう適当にきめ、必要なものをカゴに入れていると、

『なんだ、お前じゃないか。』

男の声がした。明らかに敵意がある声で。

振り返ると、やはり男が立っており、男はクオンをみて、ニヤリと笑い、

『こんなところで何やってるんだ?デートか?』
『…お前には関係ない。』

クオンが相手を睨みつけた。

『そうか、そうか。しかし、趣味が変わったのか?こんなどこでもいそうな女となんて。』

男の言葉にキョーコはムっとした。自覚はあるが、頭にくるものである。

『まあ、お前にはお似合いか。血筋と容姿でしか仕事取れない人間にはなぁ。』

パシンっ。

男が頬を抑える。目の前には、男を鋭い目つきで睨んでるキョーコ。

『女ぁ!』

男がキョーコの手首を掴み、クオンが動くのを感じた彼女は目で動くなと言って、彼が動きを止めたのを確認すると、負けずに男をまた睨んだ。

『最低ね、貴方。自分に実力がないから、クオンを妬んでるだけじゃない?そんな暇があるなら、自分の実力を磨いたらどう?』
『…!?何だと!?』
『だってそうじゃない。クオンには血筋もあって容姿も完璧で、しかも演技の才能がある。私には妬んでるとしか思えない。悔しいなら、自分を磨いたらどう?人を妬んでる前に。』
『っ…言わせておけば!』

男は図星だったのか、怒ったようでキョーコを殴ろうとし、キョーコも覚悟して目を閉じたが、いつまで経っても痛みが襲ってこないため、彼女は目をあければ、

『…彼女に手を上げるな。』

キョーコの殴ろうとした男の手をクオンが止めていた。目つきで人が殺せるのではないかと思うくらいに男を睨んで…。