「お、お願いって…?」

キョーコに見つめられて、クオンは胸がドキとした。

「…人を絶対に殴らないでほしい。」
「…!?」
「そのせいで、クオンの大切な人が事故に合う。だから、決して人は殴らないでほしい。」
「…それは…どういうこと?君は俺の未来を知ってるの?」
「知ってる。だって、私は貴方の未来の恋人だから。」

クオンは驚愕した。キョーコの恋人が自分だとは思っていなかったから。

「…もし、抑えきれなかったら…?」
「そのときは、私が彼を止める。」
「彼…?」
「リックさん…彼が事故に合うわ。植物状態になるほどの重体を。」
「…?!」
「だから私は止める。貴方に罪を作らせないために。」

もうキョーコは泣き止んでいて、瞳は強き輝きがあって、覚悟が見えた。

「例え…未来の貴方と私の繋がりがなくなったとしても。」
「一体…どういう…。」
「貴方はリックさんが事故にあった後、社長…いえ、ローリィ宝田の導きで、日本にくるの。そして日本人として俳優を始めるの貴方は。その五年後、貴方は私に再開する。姿が変わってるから、私は彼がコーンだなんて知らないし、わけあって大嫌いだった。」

クオンは頭が混乱した。何がどうなっているのか分からないが、

「わけってなに…?」

整理はあとにして、詳しく聞くことを選ぶ。

「…私ね?幼なじみに捨てられたの。中学の卒業式に、歌手になるために東京に行くから、ついて来てほしいって言われて…でも、彼はただ私に自分の面倒を見させるために連れて行ったの。でも、必要なくなったら捨てられたわ。」

淡々と話すキョーコ比べ、話をきいたクオンは腸がひっくり返そうになるくらい、怒りを覚えた。

「まあ、今となっては、そのおかげで、未来の貴方と再会したから良いと思うけどね。元々、アイツが原因であの森に行ったわけだし…ある意味キューピットね、アイツは…。」

認めなくないが、アレがいなければ、コーンに出会っていないため、皮肉なものである。

「だけど、彼がしたことは許されないよ。」
「そうね。確かにそう思う。その証拠に大嫌いだしね。」

あははとキョーコは笑ったが、すぐに真顔に戻り、

「そういうわけだから、人を殴らないでほしいの。」
「わ、分かったけど…!!でも、それじゃあ…!!」

未来が変わってしまう。『クオン』が『キョーコ』と再開することが出来なくなってしまう。そして…彼女は、恋人を永遠に失ってしまうのだ。

「ううん…未来はもう変わってると思う…あと戻りできないの…もう…。」
「い…いやだ!!俺は嫌だ!!」
「何がいやなの?」
「君が傷つくのが嫌なんだ!!」
「…やっぱり、貴方はクオンなのね…でも貴方は私のクオンじゃない…。」
「…!?」
「同時に貴方のキョーコは私じゃない。この時代のキョーコなの。」

これはキョーコなりの拒絶だった。頬にあった彼の手を手をやって降ろさせる。

「…キョーコちゃん、俺は…!」
「ダメ。その先は言っちゃダメ。」

クオンが何かを言う前に、人差し指を彼の唇に当てて止めた。

「っ…じゃあ、何なら良いんだ!!」
「何も言わないで、諦めて。お願い。」

再びキョーコの瞳から涙が溢れる。

「…じゃあ、俺を身代わりにして。」
「…!?何を言ってるの!?」
「恋人を俺だと思ってって言ってるんだ。未来の俺なら、変わりなんて容易いだろ?」

パシンっ。

そう言ったら、クオンは頬をキョーコに殴れた。

「…最低っ。」

キョーコは言い捨てるとリビングを出て行った。

「…痛いな…。」

殴れた頬をクオンは撫でると、碧眼の目から涙が浮かぶ。

「…重傷だな…これは…。」

ついさっき気づいた。こんなにも彼女が好きになっていたことに。けれど、拒絶された。

「未来の俺なら…止められたかな…。」

クオンは未来の自分に嫉妬する。未来の自分に何もかも勝てない。

「だからって、最低だな…俺…。」

勝てないのなら、身代わりにくらいなりたかった。それも叶わなかったが…。

「好きだよ…キョーコちゃん…。」

彼の告白は、空気の中に溶けて消えたのだった…。