「……。」

クオンは目を白黒させて固まっていた。

「お前にクオンはやらんー!!」
「それを言うなら『娘はやらん!!』でしょうがー!!」

目の前で言い合いしてる自分の父親とキョーコ。

ことの発端は、キョーコが作ってくれたオムライスだったのだが…。

『父さんが作ってくれたのより、ずっとずっとおいしいだよ!』

そう言ったのが、いけなかったようで、

父親はそれまで好意的にキョーコを受け入れていたのだが、

なんと自分が誉めたことにより、嫉妬してオムライスを捨ててしまったのだ。

それに流石のキョーコも頭にきたようで、現在二人とも本気で口げんか中。

もちろん、クオンに割り込む勇気などない。

「この親バカ!!」
「なんとでもいえ!!私からすれば、ほめ言葉だ!!」

口げんかはどんどん子供の喧嘩と変わらなくなり、

『…くだらない…。』

クオンは呆れて呟いたのだった…。



数時間後、クーはソファーでぐったりしている。

『…はい、ウイスキー。』

グラスを差し出すのは、彼の妻であり、クオンの母親であるジュリエナ。

『びっくりしたわ。帰ってきたら、あなたが本気で十代の女の子の口げんかしてるだもの。』

彼女は、はあと息を吐く。

『…いい子よ?あの子。オムライスもおいしかったし、もったいないわ、捨てるなんて。って…言ってるそばから、お腹鳴らさないで。』

ぐ~と盛大にお腹を鳴らしたので、ジュリエナは呆れる。

『今更、予約とかは無理よ。』
『…わかってる。何か買って食べるよ。』
『いってらっしゃい。』
『行ってくる。』

クーはソファーから立ち上がって、出かけようと、リビングを通り過ぎようとした時だった。

「…これは…肉じゃがか…?」

大変懐かしい肉じゃがのような匂いがする。

ぐ~とお腹は正直になった。

『あ…父さん!』

キッチンから出てくるクオン。

『お前が料理をしてるのか…?』
『違うよ。キョーコちゃんが作ってるんだ。俺はただの手伝い。』

にこっとクオンは笑う。少年が笑ったのをみた、クーは目を見開いた。

ここのところ、あまり笑ったとこをみたことがなかったので。

『肉じゃがを作ってるだって。俺、最初はカレーだと思ったよ。』
『ああ…人参とジャガイモが入ってるからか…肉じゃがは旨いだぞ?お袋の味と言うやつで日本で親しみがある。』
『へぇ~、そうなんだ。さっき、味見したけど、とてもおいしかったよ。』
『そうか…。』

今日はクオンがよく笑うな~とクーが考えていたら、

『…!!』

エプロンをきたキョーコが出てきて、クーを見るなり、固まったのだった…。