(しゅ…修羅場…修羅場だ!!)
社は固まっていた。
自分がちょっとトイレに行って隙に、修羅場が出来上がっている。
大魔王VS阿吽の像。
かつて、こんな修羅場をみたことがあるだろうか?ローリィがいたら飛びつく事だろう。
そんな二人の間にいるキョーコはかなり哀れである。自分に怒りを向けられているわけではないのに、キョーコは子うさぎのように震えていた。
「…嫌だね。」
「なんだと?」
「これ、は俺の問題。」
わざと尚をキョーコを軽く引っ張る。
「れ、蓮…!!」
さらに怒りを募らせたのを感じた社は、慌てて止めに入って、
「しょ、尚!!」
青い顔をして固まっていた祥子も、割って入る社をみて、自分も慌てて彼を止めに入る。
「…邪魔しないでもらえますか?」
尚にむせていた視線をそのまま社に向けたため、彼は小さく悲鳴をあげるが、
「す、するに決まってるだろ!!みんな、見てるぞ!?」
「そ、そうよ!尚!!あなたはその顔も売りなのにそんな顔しちゃダメ!!」
マネージャー二人は、一所懸命説得を試みる。
「きょ、キョーコちゃんもほら!怯えてるぞ!?」
社にそう言われて、蓮はキョーコをみると、確かに目を潤ましてブルブル震えていた。
いつもの彼なら、我にかえって、謝るのだろうが、何を思ったのか、彼女の耳元で何かを囁く。
何かを言われたキョーコは目を泳がせると、蓮をみて何かを否定するように首をふる。
『今は俺だよね?だったら、彼に言って分からせてあげて。』
首をふる彼女をみた蓮はわざと英語で蓮は言葉を発し、言われたキョーコは頬を染めて頷いた。
「な、なにを話してるんだ!!」
英語はわからないわけではないが、蓮の発音がうまく聞き取れず、尚はイライラした様子。
「…私、今付き合ってる人がいるの。」
そんな尚にキョーコは向き合うとそう言う。
「…!?そ、そいつとか!?」
そいつとは間違いなく蓮の事なのだが、
「…私と敦賀さんが?あはは!そんなわけないじゃない!!」
それを聞いたキョーコは一度キョトンとした後、なんと笑い飛ばした。
「敦賀さんはただの尊敬する先輩よ。確かに過保護に可愛がってはもらってるけど。」
「お前はそう思ってるかもしれねぇけど、こいつは!!」
「…最上さんのことはね、妹みたいに思ってるんだよ。」
「…!?」
蓮の発言に尚は驚く。もちろん、社や奏江、彼の気持ちに気づいている人間は。
「それに俺には、恋人がいるし…ね?」
誰にも気づかれないように蓮はキョーコに回している腕に力を入れる。
「そうよ。さっき言ったように私もお付き合いしてる人がいるもの。」
(…これは芝居よ、キョーコ。)
淡々の話すキョーコだが、本当は冷や汗が出そうだった。
『…キョーコ。実はね?密かに彼に嫉妬してたんだ、俺。出会ったときには、君の特別は決まってたから。今も彼が一番?』
こう囁かれたキョーコは否定するように首をふり、とっさに頭の中に台本を作り上げ、今の芝居の途中である。
「…アンタはよく知ってると思うけど、子供のとき、母のことで泣き虫だった私は泣き場所を探してたのよ。そして、行き着いた場所でとてもきれいな男の子に会ったの。その男の子は優しくて、私は大好きだった…でも、彼はすぐに遠いとこに帰ることになって、離れ離れになってしまったけれど…。」
今ならわかる。コーンに向けていたものは、ただの友情ではなかった。淡い恋心も入っていた。ただ小さすぎて気づかなかっただけ。
「でも、もう一度会えたの。アンタのおかげで。」
「…!?」
「だから、ありがとう。私を裏切ってくれて。」
裏切られて良かったと…今なら思う。確かに傷ついたし、辛かったけれど、蓮にあって、愛を知ることができた。
「…!!」
キョーコの発言、その笑みに尚は傷ついた表情し、目が揺らぐ。
「っ…もう、俺のことは何とも思ってないのか…?」
俯いて尚は聞く。
「…そうね…なんとも思ってないわ…ただの幼なじみ。」
「っ…!!」
答えを聞いた尚は、キョーコから手を放すと、彼女に背を向けて歩きだす。
「しょ、尚!!」
慌てて祥子が追いかけて、彼女もレストランをあとにする。
「…美森。」
「…!」
尚をみていた美森。マネージャーに話しかけられて、我にかえる。
「追いかけなくていいの?」
「……。」
彼女は答えない。美森が恋した彼がいないことに気づいたのだから。マネージャーもそれは知っているはずだ。彼女が美森を慰めたのだから…。
パシン。
するとだ。突然、頬に痛みを感じ、
「いい加減にしなさい!!美森!!」
マネージャーが怒った顔で怒鳴る。
「たしかにあなたが好きになった不破くんはいないけど、だから何?だったら、彼がなくしたものをあなたが見つけてあげなさい!もう一度、優しい彼に会いたいなら努力しなさい!!なんでここでメソメソしてるの!?」
「だ…だって…。」
「言い訳はいい!!メソメソなくなら、進みなさい!!まだ不破くんが好きなくせに、泣かないの!!」
「…!!」
美森は驚いた。マネージャーが本当のことを見抜いていたので。
美森が目が潤むのを感じる。はっきり言って矛盾を感じているのは自分でもわかっていた。
けれど…気づいてしまったものはしょうがない。
「…ありがとう。」
美森は泣きながら笑う。
「私、顔と歌しか取り得がない尚ちゃんが好きなの。優しくなくてもいいの。私、尚ちゃんが好き…!だから、いってくる!いつか優しい尚ちゃんにしてみせるから!!」
「それでいいのよ。いってらっしゃい。」
「うん、行ってきます!!」
マネージャーに優しく微笑まれて、見送られた美森は彼女に笑顔を見せると、尚たちを追いかけたのだった…。