「「「「かんぱーい」」」」

貸し切りのレストラン。緒方やスタッフがお酒を掲げる。

ようやく長いようで短いドラマ撮りが終わったようだ。

まあ、困難もいろいろあったが…。

まず、『心の音色』のほうで最後にキスシーンがあるのだが、二人とも緊張してNG連発。

奏江のほうは、わりとそんなにNGは出さなかったが、

キョーコたちのほうがNG連発していた。と言っても、NGを出しまくったのは尚である。

尚には緒方も困ったものだ。

蓮が演じている佐々木先生に尚の役、藤田尚人は、佐々木先生に対して敵意は向けてないのに、敵意を丸出しにするのだから。

最終的には、蓮が尚に演技させるしかなかった。

「敦賀さん、ちゃんと食事も食べてくださいね?」
「わかってるよ。」

お酒ばかり飲んでは、お腹を壊すので、キョーコは注意すると蓮は苦笑い。

「…う…やっぱり、くせぇ…。」

魚料理を前にした飛鷹は顔をしかめながらも、鼻をつまんで食べる。

「飛鷹くん、お水。」

水が入ったコップを彼の前におく奏江。

少年はそれを手に取ると一気に飲み干す。

「大丈夫?」
「…ああ。」
「なら、良いんだけど…。」

本当に嫌いなものを食べ始めた少年。何だか背が伸びたような気がした。

「「……。」」

微妙な距離にいる光と千織。

キスシーンからと言うもの、お互いに恥ずかしくって、まともに顔が見れない。

はっきり言って初々しい。スタッフの中には、付き合っている人もいるんじゃないかと思う人がいたくらいだ。

微笑ましい空気の中。イライラが絶好調が一人。

その人物はただひたすらにビールを飲みまくっている。

キョーコが蓮と笑いあっているとこを見ると残っていたビールを飲み干した。

「尚、飲み過ぎよ!?」
「うるせぇ!!」

祥子の言葉なんて聞かずに、またビールをグラスにそそいで飲む。

あまりに酔っているので周りにいるスタッフたちも戸惑っていた。

そんな尚を離れたとこで見た、キョーコは頭にきて、彼に向かって歩き出そうとしたが、蓮に止められる。

「どこにいくの?」
「どこって…アイツを叱りに…。」
「叱りにって…君はアイツの母親?」
「…!?そんなわけないじゃないですか!!あんな大きいのいりません!!」

ぷいとキョーコは顔を逸らすと、

「ならいいんだよ。君はここにいればいい。」

蓮は彼女の頭を撫でて微笑む。

頭を撫でられたキョーコは頬を染める。

「っ…!」

それを離れたところでもわかった尚は、ついに椅子から立ち上がり、そちらに向かう。祥子の止めなど、もう無駄だった。

「キョーコ!」
「…!?な、なに!?」

名前を大声で呼ばれたことにも驚いたが、キョーコは別のことに更に驚いてしまう。

顔が阿吽の像の吽のほうだった…。

「な…なんて顔してんのよ!!」

キョーコの突っ込みはよくわかる。この場、全員がそう思っていることだろう。

「んなことは、どうでもいいんだよ!!」
「は!?アンタお酒の飲み過ぎじゃないの!?」

酔っているとしかキョーコは思えなかった。

「とりあえず、水を飲みなさい!!」

まだ口をつけてないグラスを尚に向けるが、彼はそれをはねのけて、グラスが床に落ちた。

そして、そのまま、その手首を手にとり、引き寄せる。

「…!?」

尚の顔が急に近くなり、キョーコは目を大きく開く。

だが、今度は誰かに後ろからお腹に手が回されて、尚が離される。

「ク…敦賀さん!?」

後ろを振り向けば、大魔王降臨中の蓮。
危うく本名で呼びそうになった。

彼女の手首を捕らえている尚の手首を蓮は掴み、

「…この手を話して貰おうか?」

低い声でそう尚に言ったのだった…。