「美森、どうかしたの?」

ある収録番組の休憩中、美森のマネージャーが心配そうに彼女に聞く。

「…え?あ…ううん。何でもないの。」

にこと美森は笑うが、マネージャーには無理に笑っているようにしか見えない。

実は、美森がこうなのは、あの日尚たちと食事に行ってからである。

『…あなたは本当に尚が好き?』

美森はあのときの祥子との会話を思い出していた。

尚は何故か先に帰り、女2人になった時に祥子は話を切り出す。

『な、何言ってるんですか?当たり前じゃないですか!大好きですよ?』

あまりにも彼女が真剣なので美森は戸惑う。

『じゃあ質問を変えるけど、尚のどこが好き?』
『えっと…カッコいい所と歌がうまいとこ!!』
『…他は?』
『え?』
『他にないの?あの子の好きなとこ。』
『ほ、他に…?えっと…その…優しい所とか…。』
『優しい…?いつも冷たくされてるのに?』
『…?!』
『私の知っている、優しい男性は、女の子一人だけ働かせたりしないし、そこまでしてくれた女の子をやすやす捨てたりしないわ。』
『…あ…あなた、何を言ってるの…?』
『キョーコちゃん、知ってるでしょ?』
『…!!』
『あの子ね…尚に踏み台にされたの。女の私からすれば、すごく可哀想なくらい。朝から晩まで働いて、尚のために尽くしてたの。それなのに、尚はそれを仇で返すようなことをしたのよ?』
『…!?う…うそ!?』
『本当よ。尚本人が言ったことだから…これを知っても、まだあの子が優しいって言える?』
『っ…!』
『言えないでしょ?今なら、まだ引き返せるわ。若いだもの。美森ちゃんにも、きっと良い人が見つかるわ。』

そう言って微笑む祥子。

(何も、言い返せなかった…。)

美森は下唇をかんで、俯いてつま先をみる。

悔しかった。あの時なにも言えなくて。

(…いつだっけ…初めて尚ちゃんに会ったのは…。)

あの時はまだ冬だった。美森はまだ中学生で…。

昔からアイドルになるのが夢で、オーディションを受けるためにアトカキに行ったときだ。

かなり緊張していて、カバンを落としてしまい、全部廊下に散らばって、涙目になりながら拾っていた。

『…大丈夫か?』

周りは見てみぬ振りしていたのに、一人だけ拾ってくれる。

それが…尚だった。

まだ、思いやりがあるころの彼。

売れるうちに彼がなくしたもの。

(あの時の尚ちゃんを信じるのは、やっぱりバカなのかな…。)

一目惚れだった。彼にもう一度会いたくて、オーディションを頑張った。

そして、もう一度見たかった。優しく笑った彼を…。

(変わっちゃったんだね…もういないんだね…私が好きだった尚ちゃんは…。)

言い聞かせていた。彼は彼だと。でも、そんなのは嘘だった。もういないのだ。彼女が好きだった彼は…。

美森は泣いた。あのときの尚を想って…。