「ばあちゃん…。」
仏壇にお線香を添えて、手を合わせる飛鷹。
「飛鷹くん。」
「…奏江か…。」
襖を開けて奏江が入ってきたので、飛鷹は振り向く。
「私もお線香あげていい?」
「いいぞ、別に。」
飛鷹は座っていた場所を譲り、そこに彼女は座ると、お線香に火をつけて、添えて、手を合わせて黙祷。
「…飛鷹くんは、おばあさんの事、好きだったの?」
「…まあ、な。母ちゃんたちが仕事で忙しいから、ばあちゃんは俺の面倒を見てたから、自然と…。」
「そう…。」
つまり、飛鷹にとって祖母は母当然だった。それを失った時の感情は奏江には分からない。
「…奏江の家族はいいな…賑やかで。」
「え。あれのどこが?むしろうるさいわよ?」
「いや…まあ…あれはどうかと思うけどさ…。」
剥ぎ取っても剥ぎ取っても、復活して抱きついてくる彼女の兄弟と甥と姪を思い出して、飛鷹は頬を引きつる。
「でもさ…寂しい気持ちはしなくていいよな…。」
「…飛鷹くん…?」
「ちょっと、羨ましかった。」
にいと飛鷹は笑った。それをみた奏江は微笑むと、
「あんなので良ければ、何人でもあげるけど?」
冗談で彼女は言ったのだが、
「いや、いらない。」
真面目に即答する少年。
「あ…そう…。」
(まあ、いらないでしょうね…まったく可愛くないし。)
ふ…と遠目になる奏江。
「飛鷹~?」
すると襖を開けて、裕子が入ってきて、
「なんだよ。ヘラヘラ笑って。」
「これ見て?」
「…?」
渡されたのは、紙。
「裏返してみて。」
言われた通りに、飛鷹は裏返して、あるものが目に入ると、目を見開いて裕子を見る。同じく、奏江もそれを見ると彼女を見た。
「か、母ちゃん!!こ、これ!!」
紙には、お腹の中の赤ちゃんのエコー写真。
「そう、妊娠したの!私!!」
「…!!おめでとうございます!裕子さん!」
「母ちゃん!!お、俺!!」
「そうよ!お兄ちゃんになるのよ、飛鷹!!」
裕子がそう言うと飛鷹は涙ぐんでいた涙がこぼれ、
「お、俺、じいちゃんに言ってくる!!」
急いでそれを袖で拭くと、部屋を出て行った。
(うーん、流石に琴南さんの前では泣きたくないか…。)
ニヤニヤと笑う裕子。飛鷹の気持ちは母には既にお見通しのようである。
「…裕子さぁああん!!」
間もなく、襖を思い切りに開けた虎徹が登場。
「飛鷹から聞いたぞ!孫ができたのか!?」
「はい、お父さま。」
「き、聞いたか!?幸子!!二人目の孫ができたそうだぞ!!うう…お前が生きていれば…!!」
泣き出す、虎徹。
「それにしてもなんじゃない!!あのバカ息子が!『ちっ。ついに言ったか、裕子のやつ』じゃと!?おぬしたちは、いつまで黙っておった!?」
「正解には、1ヶ月と17日です。お父さま。」
「そ、そんなにか!?」
「はい。」
「なんたることだぁあああ!!」
くじゃぐしゃと残り少ない髪が生えた頭をかき散らす虎徹。それをニコニコと楽しそうに笑って見ている裕子。
そして、目を点にした奏江。
その後はもう大変である。虎徹は酒を飲み散らし、龍太郎と松田も無理やり飲まされ、ふふと笑ってる裕子と、エコー写真をボーと見てる飛鷹。
酔っ払った虎徹と松田に絡まれた奏江は帰ることが出来ず、
自宅に帰宅できたのは翌日の事だったと言う…。