「ごめんさいね~。手伝ってもらって。」

夕食が終わり、現在は裕子と一緒に皿洗い中。

「い、いいえ!ごちそうになりましたしたし!!」
「いいのよ?気を使わなくても。こっちが勝ってにやったんだから。」

ニコニコと裕子は笑いながら、食器を洗う。

「いえ、でも…!」
「ふふ。ありがとう。あなたには、お世話になってばかりね。」
「え!?」

奏江は驚いた。まったく心あたりがない。

「飛鷹のことよ。あなたに会ってから、何だか少し変わったの。あんなに嫌いって言ってたお肉と魚を少しずつだけど、食べるようになったし…仕事…芝居をもっと好きになったみたいだから。だから、お礼を言わせてほしいのよ。」
「そ…そんな!!私は何もしてません!!」
「いいえ。そんなことないわ。だって、あの子にあの子自身を見てくれる人が現れただもの。」
「…え?」
「親の七光りってあるでしょ?」
「あ…はい…。」
「いつか…あの子もぶつかるの。親の七光りと言う壁に。」
「で、でも、飛鷹くんは…演技の才能が…。」
「ええ…親だもの。子供の才能は分かってるわ。でも…演技の才能があっても、それを見てもらえないんじゃ、意味がないの。」

裕子の目がとても真剣なものに変わる。

「私はあの子が、その壁にぶち当たって、心が砕けてしまわないか心配なの。芸能界は輝かしいけど、逆に怖くて、きたない所でもあるから…。」

売れてる人もいれば、潰れていく人がいる…奏江たちが立っているそこは、そう言う所だ。

「だから…今、あの子がやらなきゃいけないことは、才能が持ち腐れにならないように実力を上げることと…自分自身を大切にすることだと思うの。」
「…それを飛鷹くんには…?」
「言ったわ。」
「飛鷹くんは、なんて…?」
「分かったって、一言だけ…でも、そう言った時のあの子の目を見たとき、大丈夫だと思ったの。誇りと情熱を持った目…いつの間にか、あの子は自分の世界を手に入れたみたい…だから…琴南さん。」

裕子さんが、エプロンで手をふくと、奏江の手をとり、

「あ、あの…!」
「…お願いがあるの。」
「…!」

そう話を切り出す。

「もし、あの子が辛そうな顔をしたら、支えてほしいの。」
「…!?そ、そんなこと出来ません!!」
「いいえ!きっと、あなたなら出来るわ。あなたはあの子にとって、特別な人間だもの。」
「え…?」
「勝手なお願いかも知れない。でも、あの子が苦しい気持ちをするのは、私たちのせいだから、あの子を支えることも、その苦しみを取ってあげることも出来ないの…でも、あなたならきっと出来ると私は思う。」
「裕子さん…。」
「ただ支えてくれればいいの。だから、お願い…。」

奏江は戸惑った。裕子は本気で言っているのが分かる。

ゆっくりと奏江は目を閉じ、

(…出来るか分からない…でも…。)

ゆっくりとまた目を開ける。

「…分かりました。」
「…!!本気!?」
「はい。私は飛鷹くんがする演技が好きです。だから…私に出来るか分からないですけど、私になりに飛鷹くんを支えようと思います。」

純粋に少年の演技が奏江は好きだ。

そして、それを守れるのなら、守ろうと彼女は思ったのだった…。