午後7時。

バスがLME事務所の前につき、そこでキョーコ達は降りる。

奏江は飛鷹のマネージャーである松田の車に乗った為、バスには乗っていない。

「じゃあ、俺たちはここで。」

蓮が光たちに軽く頭を下げ、

「お疲れ様でした!」
「お疲れ様。じゃあ、またね。キョーコちゃん。」
「はい!」

キョーコは笑顔で答えると、何故か千織に睨まれた。

「じゃあ、行こう。天宮さん。」
「ええ…。」

そのまま、千織は去っていくので、キョーコは目が点になり、

(私…天宮さんに何かした…?)

思い当たる節はないので、首を傾げたのだった…。



光と千織は、自分たちのマネージャーと別れると、

「え!?バイク!?」

千織がビックリした。光が赤い大型バイクに近づいたので。

「あ~。みんな驚くんだよね。俺がバイク乗るって知ると。」

苦笑いして、光はエンジンをつける。

「意外?」
「しょ、正直…。」
「あはは。一応、車の免許も持ってるんだけどね。ただ持ってないだけ。あ…はい、ヘルメット。」

2つあったヘルメットの片方を光は彼女に渡し、残ったのを自分で被って、バイクにまたがり、バイク音を数回鳴らすと、

「…!」

千織が乗りやすいように彼女の手前まで動かして止めた。

「…あ。やっぱり怖い?」
「え?」
「あれ?違うの?」

いつまでもヘルメットを被らないので、光はそう思ったのだが、

「ち、違うわ!怖いわけないでしょ!ただ…。」
「ただ…?」
「か…。」
「か?」
「な、何でもない!!」

顔を真っ赤にした千織はヘルメットを被らないとバイクにまたがって、光の背中に抱きつく。

「うわ!」

いきなりだったので、倒れそうになるバイクを光は何とか支えて耐えた。

(…うん…予想以上…。)

光は照れた。仕方ないとは言え、好きな女の子に背中から抱きつかれてるので。

「…じゃあ、いくよ。」
「…うん。」

千織が頷くのを確認した光はバイクを走らせ始めた。

(うわ…!はや!)

風を感じて、間近で車と変わらないスピードで走っている為か、千織は早く感じる。

『じゃあね、キョーコちゃん。』

途端に思い出す、光のキョーコの呼び方。

(…私は『天宮さん』なのに…。)

どうもイライラする。

「ねえ…。」
「何?」
「どうして京子さんのこと、本名の下の名前で呼んでるの?」
「え!?ああ…実はキョーコちゃんとあったのは、彼女がデビューする前だから。」
「…!?」
「俺たちが司会する番組でアクシデントがあって、たまたまキョーコちゃんが変わりにやってくれただけなんだけど…今では、すっかり人気もので…。」

(あ…なんだ…そうなんだ…。)

何だか分からないが、千織はホッとすると、

「…私のことも下で呼んで欲しいんだけどな…。」
「え!?今、何て言った!?」
「…!え!?やだ!口に出してた!?って!きゃ!」

驚いたあまり、光から手を放しそうになって千織は慌ててすがりつく。

「だ、大丈夫か!?」
「だ…大丈夫…。」
「息が止まるかと思ったよ…。」
「ごめんなさい…。」

しゅんと千織は落ち込む。それを感じた光は少々頬をそめると、

「…千織ちゃんは、可愛いな。」
「…!?な!?って今!?」
「うん、ダメだった?」
「っ…!べ、別にいいけど!ちゃん付けはむず痒いと言うか…。」
「…じゃあ、千織?」
「…うん…。」
「わかった…。」

千織は光の背中に頭をおく。

頬が赤いのが自分でもわかった。

そして…ゆっくりと目を閉じたのだった…。