ある高校。

バタバタと忙しそうにカメラや照明などの確認をしているADたち。

今日は初めての「心の涙」の撮影日である。

「あれ?京子さん、髪…。」
「え?ああ…役柄に合わないからカツラを被ったんです。」

制服をきた千織が、同じく制服をきたキョーコを頭を指差す。

いつもの栗毛は、カツラの黒によって隠れていた。

「それはダークムーンで使った奴?」

その隣に奏江がいて、彼女も制服を身についており、そう聞くとキョーコは頷いて、うんと答える。

実はスタッフたちは殆どダークムーンのスタッフたち。おそらくダークムーンが終わったばかりで、テレビ局や監督も同じな為、必然的にこうなったらしい。

小道具なども名残で残っていた。

「きゃーー!!」

すると突然、ここの女子高生であろう何人もの高い声が響いて、

思わず三人は、そっちを見ると、

「尚ちゃんが!!尚ちゃんが制服きてる~~!!」

尚が気だるそうに制服のネクタイを緩めながら、そばにあったパイプ椅子に座り、美森は感激しながら目をハートにしていた。

「「「ああ…なるほど…。」」」

納得した三人の声が被る。

「…最上さん。」
「あ、は…い…。」

呼ばれたキョーコは振り返ったが、目に入った人物を見て目を大きくした。

スーツを着た高い身長の男性なのだが、髪がボサボサで、肩にかかるほどあり、デカいレンズの黒のメガネをかけている。

((誰…?))

奏江と千織は、この人物が誰なのか分からなかったが、キョーコは目を白黒させ、

「つ…敦賀さん…?」

自信がなさそうに首を傾げた。

「「え…?」」

当然のごとく、奏江と千織は聞き間違いだと思ったが、

「あたり。よくわかったね?」

男性は嬉しそうに笑うとメガネをとり、長い前髪を書き上げる。

「「え…ええーー!!」」

思わず奏江たち2人は驚きの声を上げた。どうみても蓮なので。

「あはは、この格好はいいね。誰にも気づかれないから。」

どうやら気づかれない事が蓮は楽しいらしい。

「…つまり私は地味と言いたいんですか…?」

だが、それがキョーコの気に障ったようで、声を低く聞く。

「え…?別にそんなこと言ってな…。」
「言ってます!私は誰にも『京子』だって気づかれないんですから!!」

キョーコは気づいていない。役に入れば別人になると言う事に…。