「キョーコ。」
「・・・え?」
下の名前を呼ばれて、キョーコは蓮を見上げる。
「もう・・・そう呼んでいい?」
「っ・・・はい!!」
聞かれたキョーコは笑顔で答える。
「できれば俺のこともそう呼んでほしいんだけど。」
「む、無理です!!そんなこと!!」
「・・・・・・・・・この名前でも?」
「え?」
蓮はまたキョーコの耳もとに唇を近づけると、何かを囁いた。
それを聞いたキョーコは目を見開き、彼を見る。
「・・・君は、まだ六歳だったから、聞き間違えただと思うんだけど、まぁ、英語で言った俺も悪いんだけどね。」
「な・・・。」
「また会えて、嬉しいよ。キョーコちゃん。」
「コ・・・コーン・・・なの・・・?」
「そうだよ。今、こんな姿してるけど、コンタクト外せば、目は青だし。」
「嘘・・・。」
「ホントだよ。・・・・・・・・ほら。」
キョーコを信じさせるために、蓮は片方のコンタクトを外してみせる。
コンタクトを外したそれは、間違いなく、きれいな青色だった。
「ど・・・どうして、今まで黙ってたの・・・?」
相手が『コーン』のせいか、キョーコは敬語ではなく、私語になる。
「色々とあって・・・それは、後で話すから・・・。」
「わかった・・・。」
後、と言っても、いつになるのかキョーコはわからなかった。
今、そう言った彼の顔に影がさしていたからだ。
「話してくれるの、待つから・・・。」
「・・・ありがとう、キョーコちゃん。」
「・・・あの、コー・・・じゃない、クオン?」
「・・・何?」
「もう、『ちゃん』なんてつけなくていいよ?」
「あ・・・そうだったね、ごめん、キョーコ。」
「謝らないでいいよ、私がそうお願いしたんだもの。」
当時、キョーコは『キョーコちゃん』って呼んでほしいと頼んだため、謝らなくてもいいと言った。
「・・・好きだ、キョーコ。」
(ああ・・・そうか・・・。)
好きだと告げられ、蓮に唇を重ねられながら、
(あのとき、見間違えじゃ、なかったんだ・・・。)
森の中、太陽の悪戯で蓮が『コーン』に見えたのが、見間違えではなかったのだと考える。
「・・・大好き、クオン。」
蓮が離れたのを感じ、ゆっくりと閉じた目を開いてキョーコは彼に言う。
それを聞いた蓮は嬉しそうに微笑むと、また唇を重ねてきたため、キョーコは再び目を閉じた。
(運命・・・だったのかな・・・私が貴方に出会ったのは・・・。)
もう会えないと思っていた。なのに、二人はまた出会った。
これはまちがいなく、
(ううん、きっと、運命だった・・・。)
運命という以外、何もなかったーー。