ファースト・ラブ

ー無性に与えられる愛を君へ・・・ー



「いちりにちりしちり、いちにちぎりぎり、しちりいった。きみじしん、いんぎんにいちいちにいいにいきなさい。」

ここは俳優養成所。今日も生徒達が発声練習をしており、

「はい、『オ』」

指導者が手をパンと叩くと

「このおとこのほんとうのこころをとこうとおもうのよ。その男を」

「殺そうと思うの・・・!!」

それを別のクラスのキョーコが眺めており、低い声で一緒に言う。でも、明らかに怨念という名の心がこもりながらの言い方で、

「はぁうん・・・何度口にしても心に染みるわ。この発声例題文・・・。」

キョーコはしみじみしながら言う。

「私、この例文が一番好きなのよね!!心の底・・・じゃない、お腹の底から唱えるでしょ?だから、気持ちよくって!!」

その証拠にキョーコの顔は晴れている。

「ねぇ、モー子さんはどれが好き?」

どうやら隣に奏江がいたらしいが、彼女はつん!としてスタスタと歩いていってしまい、

「モー子さ~ん・・・。」

(モー子さん、まだ怒ってる・・・なんでだろう・・・私、何か気にさわることしたかな・・・。)

彼女が自分のことを敵・・・いや、ライバルだと思ってるのを知らないため、キ

ョーコは首を傾げるしかなく、

(私たち、コンビなのにこんなのつまんないな~。)

寂しさを感じつつ、とぼとぼと奏江の後ろについていく。

(それにしたってちょっと長いよね・・・マリアちゃんが養成所で問題起こしたあの日からだから・・・)

ジャージから着替えたキョーコの事務所のエレベーターに乗り、

(え~~と、かれかれ何週間・・・?)

指で数えていたが、エレベーターが止まり、男性が二人は入ってきて彼らが見たのものは

「え・・・。」

「なに・・・?」

小さな空間の角で鞄を頭におき、縮こまって念仏を唱えているキョーコの姿。

「あ・・・。」

だが、なにかに気付いたらしくキョーコはエレベーターから降りて、

(そうだった・・・私のような名の無き新人と名の売れたスターじゃ使うエレベーター違うんだった・・・わかってても、やっぱり身体が反応しちゃうや・・・『あれ以来』・・・。)

胸を撫で下ろしていたが、二週間以上前のこと・・・つまり、蓮に対して中指立てた日だ。

(コーン落としたあの日は、コーンのことで頭が一杯で忘れてたけど・・・どっかで『敦賀蓮』と遭遇するんじゃないかと思うと反射的に念仏を唱えてしまう・・・だって、あのひと・・・次にあったその時はどんな報復を見舞ってくるのか想像絶するんですもの・・・今更だけど、やんなきゃよかった・・・しかも、ショータロー仕込みだなんて!!それを仮にも恋人にやるって・・・。)

考えれば考えるほど、後悔の渦に巻き込まれるキョーコだが、

(でも、口じゃ絶対勝てないからぁああ、どうしても何かやりたかったのぉお~~!!)

泣きながら、どうしても何かやりたかったと心の中で叫ぶ。

そうやって立ち止まって色々と考えていると

「あ、最上さん!」

誰かに呼ばれ、振り返ると椹がいたので

「あ、椹さん。」

綺麗なお辞儀を彼にし、

「養成所の帰り?」

「あ、はい。」

聞かれたので素直に返事を返す。

「どう、調子は?」

「う~ん・・・今はもっぱら基礎ばかりなので、今はなんとも・・・。」

「そうか・・・それはしょうがないな~。でも、それだと琴南さんも稽古つまらなそうだろう?あの子は君と同じでもう何処かで基礎なんか習った後そうだもんな。」

「いえ・・・?それそれは真剣に取り組んでますけど・・・」

(まるで、素人かのように・・・。)

稽古最中の奏江の様子を思い出しながらキョーコは答える。

「そうか!慣れた基礎こそ手を抜かない!!偉いな!さすが女優志望!!」

「ですよね」

(やっぱり気のせい。モー子さんが私より素人で、トレーニングを必死にこなしてるように見えるのはきっと私の気のせいに違いない。あんなにお芝居が上手なモー子さんが素人なんてありえないもの。)

たまに自分より素人に見えるのは気のせいだとキョーコは考え直すと

「あ、そうだ・・・!」

突然思い出したかのように椹はぽんっと自分の拳で手のひらをたたくが、

「でもな・・・。」

なんか急に戸惑いを見せ、そんな椹にキョーコは頭上に?を浮かべる。

「まぁ・・・いいか。勉強にはなるだろうし・・・。」

椹はそう呟くので、

「は・・・?」

何のことなのか分からないキョーコは首を傾げそうになると

急に椹はにっこぉ~~と笑ったので、あまりの不自然さにキョーコはびくっと驚く。

「最上さん。」

「え・・・!?」

「今日、これから何も予定が無かったさ、」

(う゛っ・・・!な、無いわ!今日、だるまやも臨時休業なんだもの・・・!でも、ダメよっ。それをいってはいけない気がする・・・!!何故から・・・!

?)何故言ってはいけないのか、自分でも分からないキョーコ。

彼女がそんなことを思っているとは知らず椹は言葉を続け、

「君さ、ちょっことテレビの仕事してみない?」

彼の言葉にキョーコはちょとんとした。