ファースト・ラブ
ー無性に与えられる愛を君へ・・・ー
「嘘・・・?どうして嘘だなんて・・・?」
ウソだと反論されたキョーコは腕組みをし、聞き返す台詞を言って、
「え・・・だ、だって・・・!」
(はっ・・・!そうだ!)
エンジェル役の子は困ったのだろう、思わずとっさに
「お、お父様は、毎日写真を持ち歩いてくれてるわ!!」
そう言い返し、エンジェル役が言い返した言葉に生徒たちは驚いた。
‘お父様は毎日写真を持ち歩いてくれてるのよ。’
何故ならそれはフローラの台詞で、
「お兄様のだって、私のだって、持ってるじゃない!!あなた一人じゃないわ。」
‘お兄様のだって、お姉様のだって、持ってくれるじゃない!!私一人じゃないわ!!’
次にキョーコが言った台詞がエンジェルの台詞なので
「入れ替わってる・・・フローラの台詞とエンジェルの台詞が入れ替わってる・・・!!」
フローラ役の生徒は台詞が入れ替わってることに気付き、ローリィも台本をみて確かめていると
「そ、それに!!どんなにお仕事が忙しくたって、私の出るピアノの発表会には必ず出席してくるわ!!」
「そんなの世間体が悪いからよ。ピアノスクール主催の発表会だもの、来ない親のほうがどうかしてるわ。」
キョーコの最後の部分の台詞が見えない石と化してマリアの上に圧し掛かり
「・・・あ!!」
ローリィは落ち込み出す、孫を目撃。マリアの父はピアノの発表会どころか、学校行事さえ来ないので。
「お、お誕生日のプレゼントだって買ってくれるわ!!」
「選んでいるのは私よ。あなたが何が好きか分からないなんてお父様はあなたなんてどうでもいい証拠だわ。」
さらにまたキョーコの容赦ない台詞が圧し掛かる。
「ああ!!」
そのため、さらにどん底に落ち込むマリア。
去年の誕生日、初めて父が単独で送ってよこしたのは、マリアの好みをまったくと言っていいほど無視したプレゼントで、恐らくアメリカで流行ったであろう青紫色の肌を持ち、喋って踊って育つ、赤ん坊の姿をしたおもちゃ。それをみたマリアの反応は拒否するように腕もって顔を青くし、今現在、孫を見てるローリィの顔はそれよりも、もっと青くなっている。
「い、今だって!毎週遠い仕事先からお手紙をくれるわ!!」
「毎回、書かれている内容が殆ど変わりばえしない文章の?」
‘おはようマリア。今日も日本はいい天気かい?’
キョーコの台詞にマリアは父からのメールを思い出し、
「あんなの、前のを写せば何分もかからないでしょ?とても、心がこもってるなんて思えないわ。」
「そ・・・。」
続くキョーコの言葉にまた胸の痛みを覚え、エンジェル役の子が反論しようとした時、
「そんなことないもん!そりゃ・・・いつも同じ言葉で始まってるし、同じような事しか聞かれないけど・・・!でも、毎朝、毎晩、一日二回、必ずEメールくれるもん!!」
突然大声でマリアが言ったので、奏江や生徒たちも驚き、キョーコもただ瞬きをしていたが、
マリアが泣いてることに気付くとまた冷たい目を持ち、
「だから・・・?一日二回のメールが何・・・?いつも同じ言葉で同じ文章?使いまわしじゃない。手抜きもいいところね。」
カップラーメンのほうが余程、手間がかかってめんどくさいわと冷たい声で言いながら、はっ・・・!とバカにするような笑い方をし、それにマリアはカチン!と頭にきて、
「失礼なこと言わないでよーー!!」
パパのメールをカップメンと一緒にしないでちょーだい!!と怒るが、
「いや・・・お前がいつもいってることだよ。手抜きだ、即席だと。」
ローリィがそんな孫につっこんで、
「だいたい夜のメールが来る頃、向こうは真夜中なのよ!!それに合わせて毎日メール送ってくるの大変なんだから!!」
「・・・そして、それはいつも我々がお前に切々と言い聞かせた台詞・・・。」
マリアが言った言葉に再びつっこんだ。それからと言うもの、
「そんなの本人の手で送って来てるなんて限らないじゃない。」
キョーコの台詞だが、いつもはマリアが決まってこう反論すると
「パパが自分専用のパソコンを他人に触らせるわけないでしょ!?」
大人たちはこう返すのだ。
「そんなのわかんないでしょ!?」
「分かるわよ!!」
そんな会話をキョーコとマリアはしていたが、冷静を取り戻してきた生徒たちは
「ちょっ・・・!ちょっと何!?急に・・・!どうなってんの!?芝居が途切れちゃったじゃない!!」
あのガキ、また邪魔を!!とマリアにムカつきを覚えたが、
「何がわかるの!?」
キョーコがこう台詞を言った途端、
(え・・・?)
“何がわかるの!?”
「あなたに『パパ』の何がわかるの!?」
(違う・・・!!)
“あなたにお父様の何がわかるの!?”
「続いてる。」
「え・・・!?」
フローラ役の生徒の言葉に他の生徒は意味が分からなかったが、
(元の脚本通りに続いてる・・・!!)
「さっきの台詞でフローラはフローラの台詞に戻ってる!!」
彼女は台詞が元に戻ったことに気付いた。その証拠に
“あなたお父様とはろくに会話もしないくせに!!”
「あなた『パパ』とはろくに会話もしないくせに!!」
キョーコは台本通りの台詞を言っている。一方、それを言われたマリアは
『それじゃあ、しょうがないかもな~~。』
途端に蓮の言葉を思い出し、
『パパはね、どうマリアちゃんと接していいのか分からないだけなんだよ・・・。』
何かに気付いて、目を見開いた。