ファースト・ラブ
ー無償に与えられる愛を君へ・・・ー
「あなたは頭のいい子よ・・・エンジェル・・・。」
台詞を言いながら、キョーコはエンジェル役の子に近づいて、体を低くして目線を同じにし、
「他人に言って聞かされる前に、本当はもう、自分の中で答えを見つけてるんでしょう・・・?」
「お・・・お姉さま・・・?」
冷たい声と冷たい眼差しにエンジェル役の子は一歩後ろに下がる。そんな芝居を見ながらマリアは、
(そう・・・そして脚本通りなら、優しい顔と声でこういうのよ・・・)
「お父様だって人間よ・・・我を乱せば」
(“思わず心にもない言葉で人を傷つけてしまうこともあるはずよ?”って・・・。)
脚本の台詞を思い出すが、
「思わず・・・本気で人を傷つけてしまう事もあるはずよ?」
(え・・・?)
キョーコがまったく違う台詞を言ったので、
「あ・・・あの子・・・!」
奏江も驚くが、芝居は続行されているため、
“わかるでしょう・・・?”
「わかるでしょう・・・?」
“親が本気で実の子を憎む事なんて、できっこないの・・・。”
「親だって・・・本気で実の子を憎めるの・・・。」
脚本とは違う台詞をキョーコはくす・・・と笑ってから言う。とても冷たい目と声で。
「あの子、台詞変えてきた・・・!!」
「でも、これじゃあ・・・。」
生徒たちはキョーコの台詞を変えてきたことに驚き、けれどもこのままでは、
(本気で父親に憎まれていないことを『妹』に悟らせる流れに持っていけないじゃない!!)
「何、考えてるの!?」
課題を突破できるわけがないと奏江は考えているので、キョーコの考えがまったく分からなく
ローリィはローリィで、あまりにもリアルなキョーコの演技に、なんて顔でいうんだ・・・と言いたそうな表情をして、
そんな顔をさせた演技をしているキョーコは元の体制に戻り、
「そう・・・あなたはね・・・お父様に憎まれてるの・・・。」
エンジェル役の子を見下ろしながら台詞を言った。その台詞にマリアは・・・。
『大丈夫よ、マリアちゃん・・・マリアちゃんのパパはマリアちゃんを嫌ったりしてないわ。パパがすぐアメリカに発ってしまったのは、マリアちゃんと一緒にいたくないからじゃないのよ。大事なお仕事を残してきたから。わかるでしょう?』
(わかってるわ・・・。今までだってそうだもの。パパはきっと、ずっと前からマリアを好きじゃなかったの・・・。)
『違うんだよ。今までマリアちゃんのパパがママほどには、手紙や電話をくれなかったのは、お仕事が忙しいからなんだ。』
(みんな・・・同じようなことしか言わなかった・・・まるで可哀想な私をそれ以上傷つけないように。)
『違うのよ、それはお仕事が』
(まるで初めから決められている台詞みたいに・・・。)
『だから、マリアちゃんは』
(だから・・・誰の言葉もうそに聞こえた・・・。)
『パパに嫌われてなんかいないんだよ。』
(大人なんて信じられなかった・・・そうよ・・・。)
『そうか・・・マリアちゃんとパパは、今まで一緒に遊んだり、出かけたりしたこと無かったんだ・・・。』
(蓮様だって・・・。)
『それじゃあ、しょうがないかもな~~。』
『何が・・・?』
『パパはね、どうマリアちゃんと接していいのか分からないだけなんだよ・・・。』
(みんなと同じだって。)
『マリアちゃんは久しぶりにパパに会う時はどんな気持ち?』
(誰も本当のことを言わないだけだって・・・。)
『・・・うれしい。でも、ちょっぴり照れくさい・・・。』
(私はいつもそうやって・・・。)
『ほらね・・・パパもマリアちゃんと同じなんだよ。』
(笑って優しく言ってくれる蓮様の声も、みんなと同じに否定してきた。)
『マリアちゃんが思ってることはパパも同じことを思ってるはずだよ・・・。』
(だって・・・。)
『違う・・・パパはそんなこと思ってない・・・。』
『マリアちゃん・・・。』
(恐かったの・・・みんなの言葉で私の心が勝ってに期待しちゃうのが・・・。)
「マリア・・・!」
孫の異変に気付く、ローリィ。
(だから、期待なんてしないわ・・・してないわ。だって・・・分かってたもの。もう、ずっと前から、私は・・・。)
『あなたはね・・・お父様に憎まれてるの・・・。』
ローリィの視線の先には、大きな瞳から大粒の涙をたくさん出しているマリアの姿があって、
「マリ・・・」
「私は、今、泣いてるわ!!」
「ああ・・・それは誰が見ても一目瞭然だが・・・。」
「でもこれは、刃物のように切れ味のいい、あの人の率直な的確な台詞に感動したからよ!!」
「いや・・・何も、そんな無茶な言い訳しなくとも・・・。」
「言い訳じゃないもん!!本当だもん!!」
叔父の言葉を頑なに否定し、
(そうよ・・・決して今更、本当のことを言われたからって傷ついたりしないもん!!)
まるで自分に言い聞かせるように心の中で言う。
「お、お父様が・・・私を・・・?」
「そうよ・・・お父様の態度でわかるでしょう・・・?」
泣いているマリアを知らずにいるキョーコは相変わらず冷たい声と目でくすくす笑って台詞を言い、
「あの子・・・この後、どう繋げる気・・・?」
「一体、何を考えてるの・・・!?」
まったくキョーコの考えが分からない生徒たちは謎が深まっていて、奏江もその一人だったが、
「お父様はね・・・あなたなんかこれぽっちも、愛していないわ。」
ふん・・・と鼻で笑ってキョーコは台詞を述べ、その台詞にズキン・・・!とマリアの胸に痛みが走り、
「ウソよ・・・!」
エンジェル役の子が反論したが、
「あ・・・」
(しまった、つい・・・反論しちゃった・・・!)
キョーコをよく思ってない生徒たちとしても、『エンジェル』としても、ここでの反論はNGなのですぐに口を塞いだ。
そんなエンジェル役の子をみたキョーコはふ・・・と微かに口元が笑い、
(あ・・・あの子・・・!!)
それを確りと見た奏江は、キョーコが何を企んでいるのか、やっと気付くことができたーー。